きょうは「昭和の日」。昭和天皇の誕生日であり、「激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす」日である。
明暗描いた激動の歴史
昭和ほど、戦争と平和、敗亡と復興がくっきりと明暗を描く時代はない。敗戦による破滅へと突き進んだ失敗体験、焦土から立ち上がり、経済大国としての地位を築き上げた成功体験の両方を含む時代である。激動の昭和の歴史は、これからも日本人が常に振り返り、さまざまな教訓やヒントを得る民族の貴重な体験の宝庫と言える。
昭和史は、政治や経済、軍事、外交、思想、文化の分野で、今後も検証が進められていくだろう。その中で、戦前を軍国主義の時代として全否定し、戦後を平和主義の時代として全面肯定する単純な歴史観が克服されることを期待したい。
昭和から平成そして令和へと御代が移り、グローバル化やIT化、デジタル技術の発達によって社会も大きく変化してきた。そういう中で、時代の進展を踏まえない古い発想を「それは昭和の発想」などと言う人もいる。このような言葉の使い方の背景に、昭和の歴史やその時代を生きた人々を貶(おとし)めようという心理が感じられる。
しかしその一方で、いま若者たち、特にZ世代と言われる20歳前後の人たちの間に「昭和レトロ」ブームが起きている。これは主に大衆文化が中心で、町の駄菓子屋など昭和の商店街を再現した商業施設などが人気を集めているのだ。
当初は、実際に昭和時代を生きた中高年のノスタルジックな感情に訴える施設として造られた。それがいまや、客の大半は平成生まれの若者たちとなっているという。
不思議なのは、昭和を知らない彼らが、昭和カルチャーを体験し、「懐かしい」という感想を抱くことだ。なぜ魅力を感じて懐かしさを覚えるのか、研究に値するテーマと言える。
昭和のアナログ的な文化には、今のデジタル文化にはない温(ぬく)もりを感じさせるものがあるようだ。それが、若い世代には新鮮に感じられるという面があると思われる。しかし、そこに懐かしさを覚えるというのは、こうした文化の中に人間が本来求める何ものかがあるようにも思われる。
昭和の文化は、サブカルチャー一つを取っても人間的な温もりがあった。さまざまな商品や商品のデザインなども、そういった温もりを感じさせるものがある。
その背景をさらに掘り下げてみれば、個人、家族、そして中産階級を核とした社会の安定があったようにみえる。とりわけ、家庭の安定が文化の安心感や温もりを生んできた。
貴重な財産から学びたい
そのような昭和の良さを再発見することは、逆に、平成、令和と時代が進む中で、日本人が失ったものが何かを考えるヒントとなる。
「それは昭和の発想」などと昭和を蔑むのは、傲慢(ごうまん)であるばかりか、昭和が遺(のこ)した貴重な財産を失わせるものだ。混迷の時代の今こそ、昭和から学ぶものは多い。