
バイデン米大統領と韓国の尹錫悦大統領がホワイトハウスで会談した。米韓両国の連携強化は、韓国と同様に東アジアにおける米国の同盟国で、北朝鮮の核・ミサイルに脅かされる日本にとっても重要だ。
拡大抑止の強化を図る
両首脳は会談後、米国の核計画の策定に韓国の関与を一定程度認める「核協議グループ(NCG)」新設などを盛り込んだ「ワシントン宣言」を発表した。核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮に対抗し、米国の「核の傘」を含む拡大抑止の強化を図るものだ。
また、弾道ミサイル搭載の戦略原子力潜水艦の寄港を含め、定期的に米国の戦略兵器を韓国に展開することも確認した。戦略原潜の韓国寄港は冷戦時代の1980年代前半以来となる。
北朝鮮は、米国全土を射程に入れるとされる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射を繰り返し、核の先制使用を辞さない姿勢を示す。今月も、注入に時間がかかる液体燃料式に比べ、短時間で奇襲的に発射できる固体燃料式の新型ICBM「火星18」の試験発射を行った。
金正恩朝鮮労働党総書記は昨年末の党中央委員会総会での報告で、2023年に戦術核兵器の大量生産を目指し「核弾頭保有数を飛躍的に増加させる」よう指示した。北朝鮮の核の脅威は増大する一方だ。
バイデン氏は会談後の共同記者会見で、米国やその同盟国を核攻撃すれば、北朝鮮は「体制の終わり」を招くと警告した。北朝鮮を牽制(けんせい)するための発言だが、背景には韓国で米国の「核の傘」に対する信頼性が揺らぎ、独自の核武装論が広がっていることがある。
米韓は「拡大抑止戦略協議体(EDSCG)」で核の運用を議論してきた。だが、南北融和を優先した文在寅前政権下で4年8カ月にわたり中断した経緯がある。NCGを新設したのは、韓国で広がる不安を和らげる狙いがあろう。松野博一官房長官は「日米での拡大抑止の強化に向けた取り組みとも相まって、地域の平和と安定に資するものだ」と評価した。
会談後に発表された共同声明では、北朝鮮の核・ミサイル開発に加えてロシアによるウクライナ侵略を非難。「台湾海峡の平和と安定」を維持する重要性も確認し、中国の一方的な現状変更の試みに反対する姿勢を鮮明にした。
声明で米韓同盟が「朝鮮半島をはるかに超えて成長した」と強調したことは「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指す日本としても心強い。岸田文雄首相は、5月に広島市で開催する先進7カ国首脳会議(G7サミット)に尹氏を招待している。サミットに合わせ、日米韓首脳会談も行われる見通しだ。北朝鮮や中国、ロシアの脅威に対処するため、日本は米韓両国との連携を深める必要がある。
尹政権は信頼回復を
文前政権下では、18年12月に韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射問題が発生。日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄も通告し効力を一時停止していた。尹政権は信頼回復に努め、日本との防衛協力強化を図るべきだ。