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【社説】スーダン退避 自衛隊の課題も浮き彫りに

軍事衝突が続くアフリカ北東部スーダンから、邦人や外国籍の家族計58人が自衛隊機を使うなどして国外に出た。首都ハルツームの退避希望者は全員出国を果たした。戦闘に巻き込まれることなく、無事に退避できたことは何よりである。

迅速な対応に全力挙げる

退避者はNGOや国際協力機構(JICA)、在スーダン大使館の関係者ら。この後、新たに邦人1人が国外に退避したため、出国した邦人とその家族は計59人になった。

スーダンでは正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が衝突し、既に数百人が死亡している。日本政府は迅速な対応に全力を挙げ、自衛隊機を海賊対処活動の拠点があるジブチに派遣した。2021年8月のアフガニスタン退避では、初動の遅れによって自衛隊機が運んだ邦人は1人にとどまり、世論の批判にさらされた。

これを受けて22年4月に自衛隊法が改正され、邦人輸送の要件が緩和された。一定の危険があっても対処できると判断される場合は、自衛隊機を派遣できるようになったことが今回の対応につながった。失敗の教訓を生かせたと言える。

退避に当たっては、米国や英国、フランス、ドイツ、韓国、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、国連などの協力も受けた。邦人ら13人は仏政府などの協力を得て出国。邦人ら45人は、韓国などの支援でハルツームから港湾都市ポートスーダンへ陸路で移動、自衛隊機に乗り込んだ。ジブチには米仏軍などの基地もあり、各国軍との意思疎通が円滑に進んだことが大きい。

自衛隊も初の陸上輸送を行うことを想定し、自衛隊機は必要な装備品などを積んでいた。ハルツームからポートスーダンまでは直線距離で約670㌔あり、邦人輸送の手段がほかになければ、戦闘に巻き込まれることを覚悟の上で陸上輸送に踏み切っていた可能性もある。

今回の派遣は「在外邦人等の輸送」を規定する自衛隊法84条の4に基づいている。この規定を適用する場合、武器の使用範囲は隊員と、隊員の管理下で行動を共にする避難者らの防護に限定される。

相手に危害を与える使用は、正当防衛などでしか認められない。これでは今回のような場合、極めて危険な状況に陥る恐れがある。邦人の生命だけでなく、自衛隊員の安全も守ることができない。

軍に関する法律では本来、ネガティブリスト(してはいけないこと)だけが明記されるべきだ。しかし警察予備隊などが前身の自衛隊については、自衛隊法に警察法と同様にポジティブリスト(してもいいこと)が定められている。

軍と位置付ける改憲を

スーダン邦人退避は外国の協力もあって成功したが、今後はもっと難しいケースが生じることも考えられる。その意味で、自衛隊の課題も浮き彫りになったと言えよう。

自衛隊を軍と位置付け、軍としての役割を果たせるようにするための憲法改正を急がなければならない。

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