【社説】首相に爆発物 テロに甘い風潮に猛省を

筒状の物体が投げ込まれ、身をすくめる岸田文雄首相(中央)= 15日午前、和歌山市(目撃者提供)(一部画像処理しています)

岸田文雄首相が遊説先として訪れていた和歌山市の雑賀崎漁港で、24歳の男が筒状の爆発物を投げ込み、大きな爆発音が起こった。男はその場で取り押さえられて逮捕されたが、どのような理由があってもテロは断じて容認できない。卑劣で凶悪な無差別テロは言語道断の暴挙であり、選挙応援の会場を狙ったのは民主主義への挑戦だと言わざるを得ない。動機の徹底解明と厳正な処罰が求められる。

補選応援で和歌山入り

首相は衆院和歌山1区補欠選挙の応援のため、和歌山入りしていた。会場には約200人が集まり、男は聴衆の中から銀色の爆発物を首相がいた方向に投げた。爆発物は首相から約1㍍しか離れていない場所に落ち、その10秒ほど後に大きな爆発音が鳴った。首相は避難して無事だった。

爆発物はパイプ爆弾とみられている。パイプの中に火薬と起爆装置などを詰め込んで密閉したもので、着火すると内部の圧力が高まって破裂する。事件で大きな被害はなかったもようだが、爆発物が落下後すぐに爆発していれば多くの犠牲者を出した恐れもある。

昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件からまだ1年も経(た)っていない。パイプ爆弾は手製のものと思われるが、安倍氏の事件で手製の銃が使われたことに影響を受けた可能性がある。

この事件で殺人罪などで起訴された山上徹也被告は、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に多額の献金をしたことで家庭が崩壊したことを恨み、安倍氏が教団と密接な関係があると思い込んで殺害した。本来であれば厳しく批判されてしかるべきだ。ところが主要メディアが旧統一教会を「反社会的団体」と決めつけ、山上被告を教団の犠牲者のように報じたことから、テロ事件としての本質がぼかされてしまった。

山上被告には多額の支援金などが差し入れられ、減刑を求める署名サイトもつくられた。そればかりか、過激派の元メンバーが山上被告をモデルとする映画を制作し、安倍氏の国葬に合わせて公開するなど英雄視する風潮さえあった。

同じようなことは1932年の五・一五事件でも見られた。当時の犬養毅首相を殺害した海軍青年将校に対し、政党政治や財閥に不満を抱いていた国民は同情して英雄視した。この事件が政党政治を終わらせ、日本は戦争への道を突き進む結果となった。テロが許されないのは、暴力によって自らの目的を果たそうとするからだ。テロリストへの同情は、暴力の容認、さらには民主主義の否定にもつながりかねず、極めて危ういことだと言えよう。

今回の事件を起こした男は「弁護士が来てから話す」と供述しており、解明はこれからだ。ただ事件の背景にテロリストへの甘さがあるとすれば、こうした風潮を生んだメディアや政治家は猛省すべきである。

サミットへ防止徹底を

一方、警察は安倍氏の事件の時と同様に要人警護の在り方が問われている。5月には広島市で先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が開かれる。テロ防止を徹底する必要がある。

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