トップオピニオン社説【社説】仏の対中外交 取り込まれることを懸念

【社説】仏の対中外交 取り込まれることを懸念

12日、アムステルダムで記者会見するフランスのマク ロン大統領(左)とオランダのルッテ首相(AFP時事)

フランスのマクロン大統領が中国を訪問し、台湾問題で中国寄りの発言をしたことが波紋を呼んでいる。民主主義陣営が対中包囲網を形成する中、その連携にくさびを打ち込もうとする中国に取り込まれることが懸念される。

「米に追従すべきでない」

マクロン氏は中国で習近平国家主席と会談。習氏は「両国関係は前向きかつ安定した発展を維持している」と友好関係を強調。一方、マクロン氏は「ロシアを正気に戻し、みんなを交渉の場に着かせることを期待している」と習氏を持ち上げるような発言をしている。

この発言は、ロシアのウクライナ侵略開始から1年が経過した際、中国が12項目の和平案を示したことなどを念頭に置いたものだろう。しかし、和平案はロシア軍の完全撤退や全てのウクライナ領土の返還に触れておらず、ウクライナのゼレンスキー大統領は不満を示している。

そもそも、台湾統一に向けて武力行使を放棄しないとしている習氏に、ロシアを「正気」に戻すよう求めることに無理がある。中国は、台湾の蔡英文総統が米国でマッカーシー下院議長と会談したことへの対抗措置として台湾周辺で軍事演習を行うなど緊張を高めている。まずは、中国の覇権主義的な動きを批判すべきだ。

 憂慮されるのは、マクロン氏が訪中時の仏メディアのインタビューで、台湾情勢を巡って「欧州は米国の戦略に追従すべきでない」との認識を示したことだ。米国や台湾と民主主義の価値観を共有するフランスの大統領の発言とは思えない。先進7カ国(G7)メンバーのフランスが台湾問題に関与しなければ、情勢は中国に有利となりかねない。トランプ前米大統領は、マクロン氏が中国に「こびへつらった」と非難した。

フランスは伝統的に米主導の国際秩序と一線を画している。マクロン氏は習氏との会談で「独立自主外交を堅持し、陣営対立に反対する」と述べた。

同じようなことを、昨年11月に訪中したドイツのショルツ首相も表明している。だが中国の共産党一党独裁体制は、覇権拡大のほか国内の人権弾圧などが問題視されている。民主主義国であれば、こうした強権統治を容認できないのは当然だ。中国に融和的とも取れる発言をすることは危うい。

欧州主要国である仏独両国は近年、中国への警戒感を強め、インド太平洋地域での共同演習や軍艦派遣などを行ってきた。特にフランスは、インド洋や南太平洋に海外領土を持つ。それでも、対中認識に甘さが残ることは遺憾である。

背景には、中国との経済関係を重視する姿勢があろう。今回はマクロン氏の訪中に合わせ、仏航空機大手エアバスが中国航空器材集団から160機を受注する大口契約を結んだ。ショルツ氏訪中の際にも大規模な財界代表団が同行した。

G7サミットで結束図れ

岸田文雄首相は、5月に広島市で開かれるG7首脳会議(サミット)で、改めて中国の脅威を訴えるとともに「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて結束を図る必要がある。

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