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【社説】安保強化支援 地域全体の抑止力向上を

地域の安全保障協力を深めるため、政府は友好国・同志国の軍に防衛装備品などを供与する「政府安全保障能力強化支援」(OSA)の枠組みを創設し、その実施方針を決めた。地域全体の抑止力を向上させる必要がある。

中国への対応念頭に

運用に際しては①防衛装備移転三原則などの枠内②国際紛争との直接の関連が想定しにくい分野に限定③国連憲章の目的・原則との整合性を確保――するとしている。今年度は東南アジアのフィリピンやマレーシア、南アジアのバングラデシュ、太平洋島嶼(とうしょ)国フィジーの4カ国を対象に、領海や領空の警戒監視や情報収集に必要なレーダーや衛星通信システムなどの供与を検討する。

OSAの実施は、インド太平洋地域で軍事活動を活発化させる中国への対応が念頭にある。この地域で自衛隊や米軍と共同で活動できる能力を持つ国は韓国やオーストラリアなどに限られているため、東南アジアなどの途上国軍を直接支援し、抑止力向上を図る狙いがある。

特にフィリピンは、南シナ海の軍事拠点化を進める中国の脅威にさらされている。オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、中国による南シナ海での領有権主張を退けたが、中国はこの判決を「紙くず」と呼んで無視する姿勢を続けている。早急に支援を行うべきだ。

これまでの途上国支援は非軍事に限定する政府開発援助(ODA)が中心だった。途上国では沿岸警備を軍が担う場合も多く、軍民共用の港湾・空港も珍しくない。しかしODAでは、このようなケースには対応できない。

政府は昨年末に改定した国家安全保障戦略で、法の支配などの価値観を共有する国に防衛装備品の提供を行う新たな枠組みを設けることを明記した。中国に対抗するため、OSAでの支援に努める必要がある。

一方、防衛装備移転三原則を巡っては、殺傷能力を持つ防衛装備品の友好国への輸出を可能とする見直しを進める方針だ。運用指針を緩和すれば、殺傷能力を持つ装備品の移転先を豪州などの同志国にも広げることができる。ウクライナのような国際法違反の侵略を受けている国に輸出を認めることも検討する方向だ。

日本はこれまでウクライナに自衛隊の防弾チョッキやヘルメットなどを提供している。しかし欧米が武器供与を行う中、国力にふさわしい支援ができているとは言えない。防衛装備移転三原則の運用見直しを急ぎ、情勢によってはOSAにも適用する必要がある。

安定と経済成長に貢献を

またODAに関しては、外務省が指針となる「開発協力大綱」の改定案を公表した。予算拡充の方針を初めて明記し、「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けて開発協力の戦略的活用を打ち出した。

さらに、中国が途上国に多額の借金を負わせて支配を強める「債務のわな」を踏まえ、「開発協力ルールの普及や実践を主導する」と表明した。インド太平洋地域の安定と経済成長に貢献すべきだ。

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