【社説】日中外相会談 邦人救出に全力を挙げよ

中国の秦剛国務委員兼外相(右)と握手する 林芳正外相=2日、北京の釣魚台迎賓館(代表撮影・時事)

林芳正外相が訪中し、秦剛国務委員兼外相と会談した。外相の訪中は約3年3カ月ぶり。昨年11月の日中首脳会談で林氏の訪中実現で一致したが、この時期となったのは「反スパイ法」違反容疑で拘束されたアステラス製薬の日本人男性社員の一刻も早い解放を求めるためだ。

やりとり明らかにせず

会談で林氏は日本人拘束に抗議し、早期解放を求めた。また、日本周辺での中国による軍事活動の活発化に深刻な懸念を表明した。経済面でも技術の開示や移転を強制する中国の動きに強い懸念を示したほか、国際社会の平和と安全の維持に責任ある役割を果たすよう求めた。会談はワーキングランチを含め4時間に及び、激しい応酬もあったと思われる。

しかし長時間のやりとりにもかかわらず、日本の申し入れに対する中国側の発言内容や今後の見通しについて、林氏は「事柄の性質上、差し控えたい」と明らかにしていない。中国外務省の発表では、邦人の早期解放要求に対し秦氏は「法に従って処理する」と述べ、求めに応じなかった。残念な結果だ。日中の安全保障に関する対立問題なども未解決に終わったもようだ。

機微に触れる外交上のやりとり総(すべ)てを明らかにする必要はないが、外相会談は「交渉」の一環であり、単なる陳情や一方的な意見表明の場ではない。日本人の安否に関わる重大な問題であるにもかかわらず、やりとりの骨子さえ明らかにしないのは、国民の知る権利に応えたものとは言えない。林氏には説明責任を果たしてもらいたい。

3月のモスクワでの中露首脳会談の際、岸田文雄首相がウクライナを訪問。ロシアの侵略を非難せず露軍撤退も求めない中国首脳に対し、岸田首相はロシアを非難してウクライナ支援の継続を表明し、権威主義国と日本の姿勢の違いをアピールする結果となった。この後、ロシアは日本海でミサイルを発射。中国は邦人の不当拘束に加え、沖縄県・尖閣諸島沖で中国公船が80時間以上も領海を侵犯し、尖閣国有化以降最長を記録した。

両国の一連の動きは偶然とは思えない。日本への報復や威嚇ではないのか。日本は半導体製造装置の輸出規制を導入する方針を示した。中国には大きな打撃だ。措置の緩和などを求める外交カードとして日本人を拘束した可能性も考えられる。

秦氏は、台湾問題は中国の核心的利益の核心であり、日本は中国の主権を損なうべきではないと牽制(けんせい)。さらに「悪人の手先になるな」と述べ、米主導の輸出規制に日本が加わらぬよう求めてきた。

スパイ防止法の制定急げ

日本はこうした不当な圧力や要求に屈してはならない。日本人拘束に強く抗議し早期解放を粘り強く求めるとともに、経済安保での安易な妥協や取引に応じるべきではない。自国民が海外でスパイ容疑などで逮捕された場合、諸外国では相手国に同様の措置で対抗するのが通例だ。そうした強い措置を日本も考える時期に来ているのではないか。そのためにもスパイ防止法の制定が急がれる。政府と林氏には、中国に「力負け」しないタフで強(したた)かな外交を求めたい。

spot_img
Google Translate »