トップオピニオン社説【社説】中国の邦人拘束 繰り返される人権侵害許すな

【社説】中国の邦人拘束 繰り返される人権侵害許すな

中国・北京で今月、50代の日本人男性が「中国の国内法に違反した」として当局に拘束されたことが分かった。

スパイ行為など国家安全関連の容疑とみられるが、中国側は十分な説明を行っていないという。外国人を拘束してその理由を公表しないのは、民主主義国では考えられないことだ。日本政府は中国に強く抗議し、男性の早期解放実現に全力を挙げなければならない。

 反スパイ法で摘発強化

男性は大手製薬会社、アステラス製薬の社員で、駐在期間を終えて帰国直前だったという。具体的な容疑や拘束の経緯なども分かっておらず、極めて不当だと言わざるを得ない。

中国は2014年に反スパイ法を施行。その翌年以降、摘発を強化し、今回を含めると日本人17人が拘束されたことが明らかになっている。この中には、15年に北京で拘束され、懲役12年の刑で服役中に死亡した北海道出身の70代男性もいる。この男性に関しても、どのような行為が罪に問われたか公表されていない。こうした人権侵害が繰り返されてきたことは断じて容認できない。

拘束中の人権状況も劣悪だ。16年に北京で拘束されて懲役6年の刑で服役し、22年に日本に帰国した男性によれば、拘束後の最初の7カ月間は逮捕前の尋問を行うために「居住監視」が続いた。ドアのないトイレとシャワーの付いた部屋で生活し、2人の監視役に常に見張られていた。窓は分厚いカーテンで覆われ、夜は電気をつけた状況で寝たという。

既に実刑判決を受けた日本人の場合、裁判で正当な審理がなされたかどうかも不明だ。運用の不透明な法規で外国人を拘束し、裁判にかけることは許されない。北京の日本人駐在員の間で不安が広がるのも当然だ。

日本政府は今回拘束された男性はもちろん、現在も拘束、服役中の日本人全員の早期解放を中国に強く求めるべきだ。中国では、人権活動家やウイグル族などの少数民族に対する人権弾圧も行われている。こうした状況を見過ごすことはできない。日本は自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を共有する欧米諸国などと連携し、中国への圧力を強めていく必要がある。

中国の習近平指導部は、中国式の民主や人権があると強調している。背景には、米国が普遍的価値を浸透させることで共産党一党独裁体制の転覆を狙っているとの危機感がある。

習国家主席は今月、3期目をスタートさせた。新型コロナウイルス感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策が3年近く続いたことで人々の不満が渦巻く中、習指導部は警察やスパイ摘発などを担う情報機関の役割を強化する構えだ。今回の日本人男性拘束も、このような動きが影響した可能性がある。

 民主陣営は包囲網構築を

また、中国全土に設置されている監視カメラは現在5億台に上るとの推計もある。監視強化で政権批判の芽を摘む方針だ。日米など民主主義陣営は、人権侵害に悪用されかねない技術の輸出規制などで対中包囲網の構築を進めるべきだ。

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