トップオピニオン社説【社説】IPEF会合 中露の「経済的威圧」に対抗を

【社説】IPEF会合 中露の「経済的威圧」に対抗を

日米など14カ国が参加する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の首席交渉官会合が、インドネシア・バリ島で始まった。

米が地域への関与強化

IPEFは、バイデン米大統領が2021年10月末の東アジアサミットで提唱し、22年5月に東京で発足を宣言した経済圏構想。中国への過度な依存からの脱却が狙いで、環太平洋連携協定(TPP)など関税引き下げを盛り込む自由貿易協定(FTA)とは異なる。

当初は実効性がないとして軽視する向きもあったが、日米を中心として参加国が着々と会合を重ねている。米国は議長国を務める今年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に向け、成果文書の取りまとめを急ぎたい意向だ。

インド太平洋にはTPPのほか、日中韓など15カ国による地域的な包括的経済連携(RCEP)といった大型のFTAが複数存在するが、いずれも「米国不在」。中国はRCEPや独自の経済圏構想「一帯一路」を通じて、自国に有利に働くルール作りを急いでいる。米国がTPP離脱後、IPEFでインド太平洋地域への経済的な関与を再び明確にした意義は大きい。

首席交渉官会合では「貿易」「供給網」「クリーン経済」「公正な経済」の4分野で共通ルール構築に向けて議論を深める。貿易相手国に圧力をかける中国やロシアに対抗するには、半導体やエネルギーを含む重要物資の国際サプライチェーン(供給網)を再編し、経済安全保障を強化することが求められる。

日本と米国は、今年それぞれ議長国を務める先進7カ国(G7)、APECの主要議題の一つに「経済的威圧」への対応策を挙げている。供給網の再編に向け、IPEF実現を急がなければならない。

米通商代表部(USTR)は今月初め、バイデン政権の通商政策に関する年次報告書を議会に提出した。報告書は、IPEFについて「インド太平洋地域における政権の経済戦略の中心だ」と強調。その実現が今年の最優先課題だと明記し、「米国が積極的に主導する」と宣言している。

さらに、新疆ウイグル自治区での国家主導の強制労働や、鉄鋼の過剰生産問題などについて「同盟国と共に中国の責任を追及していく」と訴えた。米国では22年6月に自治区で生産された製品の輸入を原則として禁じる法律が施行された。日米をはじめとする民主主義陣営が結束して国際的な供給網から人権侵害を排除し、自由で公正なルールに基づく経済秩序を支えていくべきだ。

米のTPP復帰が不可欠

ただIPEFは、米国内で自由貿易への国民の反対が強く、TPPに復帰できないために考案された苦肉の策という側面がある。一方、中国はTPPへの加入を申請しているが、参加国との間で摩擦を抱えているほか、TPPは貿易・投資で高い水準のルールを定めており、加入は困難との見方が強い。

中国への牽制(けんせい)を強める上でも米国のTPP復帰が不可欠だ。日本は復帰を働き掛けていく必要がある。

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