韓国の尹錫悦大統領は、日本の統治期に朝鮮半島で起きた独立運動を記念する行事で演説し、日本について「過去の軍国主義侵略者から、われわれと普遍的価値を共有するパートナーになった」と述べた。火種になっている歴史認識問題を巡る対日批判を封印し、安全保障などを中心にした協力を重視した未来志向を訴えたものだ。まずは評価したい。
歴史巡り日本に言及せず
尹氏は就任以来、日本との関係改善に強い意欲を示してきた。最大の懸案となっている元徴用工問題でも、文在寅政権時に下された大法院(最高裁に相当)判決に基づく日本企業の韓国内資産現金化を防ぐ方法を模索してきた。
昨年は北朝鮮が前例なき頻度で各種弾道ミサイルを発射し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の高度化を進め、その脅威が一段と高まった。尹氏は軍事分野における日本との協力が不可欠とする立場を鮮明にし、中露の脅威も想定して自衛隊と米韓両軍による海上での共同訓練も実施されるようになった。
過去を巡り日本を批判するのではなく、現在と未来のために日本と協力すべきという一貫した信念が感じられる。尹氏は昨年、日本統治からの解放日である8月15日(光復節)に行った演説で、すでに日本のことを「力を合わせるべき隣国」と述べていた。それだけに今回の演説内容は既定路線と言えるが、歴史認識問題で日本に何も求めなかった点は異例だ。
だが、尹氏の方針が実を結ぶには韓国国内の壁が立ちはだかっている。歴史認識問題を巡る日本批判を執拗(しつよう)に繰り返す左派系の野党や一部市民団体などの攻撃的な言動だ。まだ「反日」に異を唱えにくく、「親日派」「土着倭寇」などのレッテルを貼られることを極度に警戒する社会的ムードもある。
元徴用工判決に伴う現金化を防ぐため、尹政権は被害者への賠償金支払いを韓国の財団が肩代わりする第三者弁済案で最終調整に入り、一部の原告はこれに肯定的だとされる。反対する原告には繰り返し説明して理解を得ようとしてきた。
ところが一部市民団体は、被告の日本企業による賠償金支払いや謝罪がなければ受け入れられないと、かたくなに主張する。問題の発端が日韓請求権協定を無視した大法院判決にあることを忘れ去ったかのように日本側の立場には触れず、賠償や謝罪を拒む日本を批判的に伝えるメディアも少なくない。
尹氏にとって日韓関係改善のカギは、韓国国内にくすぶる「反日」をいかに克服するかにある。言い換えれば、尹氏にとって日韓問題は今や韓国の国内問題に等しい。
好感度アップを追い風に
日本の公益財団法人「新聞通信調査会」が昨年末に実施した世論調査によると、日本に好感が持てると答えた韓国人は前年より約9ポイント増の40%近くで、2015年の調査開始以来最高だった。「訪日客増や韓国政権交代で関係修復の兆しが出てきた」からだという。尹氏にはこうした国内世論の対日好感度アップを追い風に国内の壁を越えてもらいたい。