【社説】年金額改定 より良い制度の在り方追求を

2023年度の公的年金は、既に受給している68歳以上の支給額が前年度から1・9%引き上げられる。

増額は3年ぶりだが、年金財政を安定させるため給付を抑える「マクロ経済スライド」も3年ぶりに発動。物価上昇率より低い伸びにとどまった。政府は高齢者に、今回の抑制が将来世代のために必要だということを十分に説明すべきだ。

物価高で実質目減り

年金支給額は、直近1年間の物価と過去3年度分の賃金の変動率を基に毎年度改定している。ただ、物価と賃金がプラスの場合はマクロ経済スライドを適用する。

現行の年金制度は、現役世代が保険料を納め、高齢者に年金として仕送りする仕組み。マクロ経済スライドは、少子高齢化が進む中でも年金財政の収支が釣り合うよう、支給額の伸びを抑える制度で、04年に導入された。23年度は、年金財政悪化の要因となる平均余命の延びなどから算出した0・3%と、年金がマイナス改定だった時に適用を先送りした0・3%を足した0・6%を差し引く。

このため、最終的な改定率は68歳以上で1・9%、67歳以下で2・2%の引き上げとなる。年金の伸びはロシアのウクライナ侵略などに伴う物価上昇に追い付かず、実質的には目減りする。政府は年金財政の健全化に向けて理解を得るよう努めるとともに、高齢者が生活に困らないか十分に目配りし、機動的な対策を打てるよう備える必要がある。

マクロ経済スライドが過去適用されたのは、15、19、20年度の3回のみだった。デフレ下で未調整分が持ち越され、物価高の局面で一気に適用する仕組みに対しては、年金財政や高齢者への生活に影響が大きいとして見直しを求める声が強い。25年の次期年金制度改革に向け、制度のより良い在り方を追求することが求められる。

年金財政の安定には、高齢者の就労を促して社会の支え手を増やすことも欠かせない。昨年4月から年金受給開始時期の選択肢が60~75歳に広がった。時期を遅らせれば月々の年金額が増える仕組みで、75歳に受給を始めれば65歳に比べて月額が84%増える。企業でも高齢者の経験を生かし、社会全体の活性化につなげたい。

長期的には、少子化の流れを反転させることも必要となる。岸田文雄首相は「異次元」の対策を打ち出しているが、子育て世帯への経済支援だけでは解決できない。出生数減少が続く背景には、社会の非婚化・晩婚化がある。この問題と向き合わない限り、少子化を食い止めることはできない。

家計への支援強化を

東京商工リサーチによると、今年の食品値上げは1万品目を超える見通しで、家計への負担増は当面収まりそうにない。ウクライナ危機もいつ終わるか分からない状況だ。

年金に頼る高齢者世帯のほかにも、生活の厳しい世帯は多い。物価高が続いた場合、政府は今年9月まで実施される電気・ガス・ガソリン代の負担緩和策の延長をはじめ、家計への支援を強化すべきだ。

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