通常国会で岸田文雄首相の施政方針演説に対する各党代表質問が行われている。防衛力の抜本的強化に向けて5年間で防衛費総額を43兆円に増やす財源、出生率を反転させるため子供・子育て予算を倍増する「異次元の少子化対策」の財源など、質疑を通して議論を深め解決策を打ち出していくべきだ。
解散総選挙求める立民
立憲民主党の泉健太代表は、施政方針演説に驚きがあったとして「防衛増税をするのに増税という言葉を使わなかった。増税隠し演説だ」と批判。「子供・子育て予算の倍増の財源を語らなかった」とも追及した。
また、ウクライナへのロシア軍侵攻を非難し、国防を重視する世論を背景に泉氏もミサイル防衛の強化など立民の外交安全保障戦略をアピールした。政権内で検討される増税、建設国債、復興特別所得税の転用などを批判し、歳出改革による財源捻出を主張したが具体策の議論を進めるべきだろう。
財源を巡り増税するか否かの審議が今国会の焦点になることは疑いない。首相は昨年12月8日、2023年から5年間で総額43兆円の防衛費財源について27年度以降、増税によって1兆円余り確保するための検討を与党に指示しており、複数の増税案が浮上している。
昨年夏の参院選で自民・公明の与党は増税を公約しておらず、泉氏が多くの国民の声として「政府だけで勝手に決めないでほしい」と冒頭で苦言を呈したのは理解できる。そこで、野党6党が反対している増税について「解散総選挙で国民の信を問え」と訴えたのは、筋論から言えば正しいことだ。
だが、立民は国民民主党と分裂してしまった上、共産党と野党共闘を維持しており、一方で昨秋の臨時国会から日本維新の会と協調関係にあるため政策の違いの大きい共産と維新との間で板挟みになるなど、野党側は政権に対して総選挙を挑む結束力を欠いている。各世論調査の立民はじめ野党各党の支持率は0~数%の間にあり、全く政権交代への期待感を欠いている。
これでは、解散を求めるのも「から元気」にすぎないのではないか。仮に岸田政権が増税を公約して解散を打ち、自民260、公明32の与党292議席から59議席減らしても過半数を維持できる。その蓋然(がいぜん)性は高いと思われるだけに、解散で公約通り増税の実現となろう。
また、自民党の茂木敏充幹事長は「ウクライナは対岸の火事ではない」として、中国が27年に建軍100年となる人民解放軍の現代化を図り、北朝鮮はミサイル・核開発能力を格段に向上させているとして「今後5年が死活的に重要で、グローバルスタンダードの防衛力を整備することが日本の将来を左右する」と訴えた。
物価高など踏まえ熟議を
財源について首相は、家計や中小企業に配慮しながら「今を生きるわれわれが将来世代への責任として対応すべきものと考える」と、増税も視野に入れていると解される答弁をした。電気料金など物価高騰、日銀の金融緩和策修正などを踏まえ、十分に熟議して財源確保の方策を追求してほしい。