【社説】首相の施政方針 目指す国家像が見えない

通常国会の冒頭、岸田文雄首相が施政方針演説を行った。外交・安全保障、経済、少子化対策など諸課題の解決に向けた取り組みに意欲を示したが、財源などの具体策についてはほとんど触れなかった。また、わが国がどういう国を目指すのかの理念に関しても語らず、総花的な印象となった。

国会任せの改憲論議

首相は現在を国際平和秩序の弱体化が露(あら)わになっている「歴史の分岐点」にあると位置付け、先進7カ国(G7)議長国として「強い責任感を持って今年1年、世界を先導していく」との決意を表明した。広島で5月、G7首脳会議(サミット)のホスト役を務める首相としては絶好の見せ場にしたいのだろう。

昨年末にまとめた新たな国家安全保障戦略も13日の日米首脳会談やサミットを強く意識して策定してきた。「防衛力の抜本的強化」を「強い覚悟」で決断したのもそれが背景にある。各政策課題の中で最初に取り上げ、安定財源の必要性に言及し、行財政改革で捻出しても不足する1兆円について「われわれが将来世代への責任として対応する」とも語った。

ただ、「増税」との直接的な表現は避け、具体策を示さなかった。肝心なのは、それをどう確保するのか、国民に理解されるよう説得力を持って分かりやすく発信することだ。それがなければ、政治への信頼は回復せず、政権支持率を上昇させることはできない。

憲法改正についても同様である。首相は「先送りできない課題」だとしながらも「国会で一層議論を深めるよう期待する」と語った。新安保戦略の要とされる反撃能力の保有に関しては、自衛隊を軍隊と憲法に明記せずに議論を進めているため、防衛力の強化にはおのずと限界がある。昨年の国会論議で欠落していたのはこの点である。それ故、首相は率先して改憲の必要性を訴えねばならないはずだ。国会任せは無責任である。

年頭の記者会見で少子化について「異次元の対策に挑戦する」と意気込んでいた首相だったが、演説では「年齢・性別を問わず、皆が参加する、従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と表現を弱めた印象だ。いずれにせよ、「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」であるとの切迫感を持つことは必要である。

首相は「骨太の方針」を決める6月までに予算倍増に向けた大枠を示すと述べたが、「兆円単位」の安定財源をどう確保するのかを明確にし国民の理解を得なければならない。

また、この国難を克服し、首相の目標とする「出生率の反転」を実現するためには子育て対策だけでは困難だ。首相に求めたいのは、晩婚化や未婚化といった社会現象の分析を詳細に行い、その流れをどう変えるかの英知の結集と実践だ。

国益のための論戦を

4月に統一地方選や衆院補欠選挙があり、国会論戦は選挙を意識した攻防に陥りがちになろう。だが、国内外には先送りできない課題が山積している。与野党は国益のため立場を超えて立法化作業に臨むことが肝要であることを肝に銘じるべきだ。

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