経団連が2023年春闘の経営側指針を発表した。労使交渉で、急激な物価上昇を「特に重視」するよう会員企業に要請。賃上げについて「企業の社会的な責務」と訴えた。賃上げで物価上昇に対応する姿勢を明示したことは評価できる。
ベアに「前向きな検討を」
指針では、基本給を底上げするベースアップ(ベア)に関して「前向きな検討が望まれる」と明記。経団連の大橋徹二副会長(コマツ会長)は「日本全体で賃金引き上げの機運を醸成していく必要がある」と表明した。
大手企業の一部は、既に大幅な賃上げを表明している。カジュアル衣料の「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリングは、国内正社員ら約8400人を対象に年収を最大で4割引き上げる。背景には、物価高への対応だけでなく、優秀な人材確保のために給与面での魅力をアピールする狙いもある。
ただ、日本経済研究センターがまとめた民間エコノミストの賃上げ率予測は平均2・85%と、今春闘で連合が要求する「5%程度」に届いていない。昨年11月の全国消費者物価指数は前年同月比で3・7%上昇しており、予測通りでは物価高に十分に対応できない。
連合は、経団連指針が賃上げ手法として基本給など月例賃金の引き上げ以外にインフレ手当や一時金など「多様な選択肢」を示したことに異を唱え、ベアによる賃上げを優先するよう訴えた。もちろん経営状況は業種や企業によって違いがあり、指針が「自社の実情に適した方法」で実施するよう求めたことは理解できる。
ただ企業の内部留保は21年度末で516兆円に上っており、これまでの円安で収益が好調な業種や企業は、ベアを含む大幅な賃上げで従業員の生活を支え、消費拡大につなげる「経済の好循環」の実現に努めてほしい。大企業が前向きに賃上げに動けば、全国の企業数の9割、従業員の7割を占める中小企業への波及効果も高まろう。
経団連の十倉雅和会長は、賃上げについて「一時的であれば各社できると思うが、一年で終わらせては意味がない。持続的、構造的に取り組まなければいけない」と述べた。継続的な賃上げを実現するには、生産性向上に向けた設備投資などの取り組みも求められる。
政府も企業が賃上げに動きやすい環境を整える必要がある。岸田政権は海外環境の影響を受けにくい内需主導の経済成長を目指すべきだ。デジタル社会に欠かせない次世代半導体の実用化や、人工知能(AI)、バイオテクノロジー、量子関連などの新興技術の育成を急ぎ、経済安全保障を強化することも欠かせない。
増税で打撃を与えるな
昨年末に日銀が金融緩和の修正に踏み切ったことで、物価上昇を加速させていた過度な円安は一服している。企業の継続的な賃上げには、政府の財政政策や日銀の金融政策も大きな影響を与えよう。
その意味で、岸田政権が防衛増税を決めたことや、少子化対策でも増税論がくすぶっていることは問題だ。増税で経済に打撃を与えてはならない。