東京電力福島第1原発の敷地内にたまり続ける処理水について、政府は海への放出開始時期を「今年春から夏ごろ」とすると確認した。海底トンネルなどの設備工事完了後、原子力規制委員会による使用前検査や国際原子力機関(IAEA)の安全性評価を経て放出する方針だ。
原発の廃炉を進める上で処理水放出は欠かせない。地元関係者の理解を得るとともに風評被害の防止に努める必要がある。
漁業者は風評懸念し反発
政府は2021年4月、2年後をめどに処理水を海洋放出する方針を決定した。処理水を海水で希釈し、放射性物質トリチウムの濃度を国の基準値の40分の1未満に薄め、原発から約1㌔の沖合に流す計画だ。
風評被害防止や賠償についての行動計画も改定し、創設する500億円の基金で影響を受ける漁業者を支援する方針を盛り込んだ。持続可能な漁業を実現するため、新たな漁場の開拓や燃料コスト削減のための取り組みを後押しする。
処理水は、原子炉の冷却水や建屋に流れ込んだ地下水が内部のデブリ(溶け落ちた核燃料)に触れて発生する放射性物質を含んだ汚染水を、特殊な機器で浄化したもの。ただ、トリチウムは現在の技術では除去できない。1000基を超える敷地内のタンクにためてきたが、今年の夏~秋ごろには満杯となる。
タンクは廃炉作業に必要とされる場所にも置かれている。東日本大震災からの復興のため、処理水放出は避けて通れない。
だが放出に対し、風評被害を懸念する漁業者の反発は強い。政府は「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と約束した経緯がある。放出開始には漁業者ら地元関係者の理解を得なければならない。
IAEAは昨年4月、処理水が放出された場合に放射線が人体に与える影響について、東電の分析結果を踏まえて「日本の規制当局が定める水準より大幅に小さいことが確認された」とする報告書をまとめた。安全性に関する最終的な判断は放出前に発表するとしているものの、政府はこうした見解を広く発信し、風評を防ぐべきだ。
汚染水の発生抑制も大きな課題となる。処理水の放出量は年間約6万㌧だが、1日に生じる汚染水を150㌧とした場合、トリチウム以外の放射性物質を取り除いた後、ほぼ全量が処理水になるため、年間の増加量は約5万4000㌧となる。タンク内の処理水は計約130万㌧もあるにもかかわらず、年6000㌧しか減らない計算だ。
東電によれば、汚染水の発生量は20年度の1日当たり140㌧から21年度には130㌧に減少した。21年度は平年より降水量が多かったが、損傷した建屋の屋根が補修されたためだ。今後もさらに減らすための取り組みを進める必要がある。
廃炉への歩みを進めたい
福島で風評被害を生じさせないためには、私たち一人一人が風評に惑わされず、復興を願って行動することだ。今年3月で東日本大震災と福島第1原発事故の発生から12年となるが、事故から廃炉完了までは30~40年かかるという。処理水放出で廃炉への歩みを前進させたい