【社説】臨時国会閉幕 国難対処へ危機感が欠如

異例ずくめの臨時国会が閉幕した。岸田文雄首相の政権運営は危険運転が続き、政権の不安定感が増している。国会全体を見ても、安全保障や少子化問題など国難対処への危機感が欠如し、憲法改正に向けた建設的な論戦もなかった。

「安倍政治の継承」を訴えた岸田首相は、多方面からの英知を吸収しながら覚悟と迫力をもって政権戦略の再構築を図ることが求められている。

自民党役員会に向かう岸田文雄首相(左)=13日午前、東京・永田町の同党本部

異例ずくめだった国会

異例だった第一は、国会日程の立て方だ。10月3日の開幕直後に鈴木俊一財務相が米国に派遣され、衆院予算委員会の審議開始が約1週間ずれ込んだ。これは官邸と自民国対との連携不足から生じたもので、岸田首相の東南アジア歴訪もあり、69日間の会期はかなり窮屈だった。

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題にも質疑が集中。その絡みで山際大志郎経済再生担当相が辞任した。葉梨康弘法相による死刑に関する発言や寺田稔総務相の「政治とカネ」を巡る問題も続き、事実上の3閣僚更迭となった。

全てにおいて首相の決断が遅く、マスコミ報道に左右された。首相が閣僚の交代を衆参本会議で答弁したのも異例だった。首相の目指す「信頼と共感」の政治が結局、マスコミの評価を判断軸にしているのでは、大衆迎合政治の域を出ない。

一方の野党の対応も残念だった。ここが攻め時とばかりに議員の資質や責任を問う質問を違憲ともみられる発言を含めて続けた。その影響で重要な政策議論が十分にできなかった。旧統一教会問題を巡って被害者救済新法案の審議に入ったのが会期末まで残り5日となってからだ。与野党の妥協の産物になってしまった。会期を延長してでも議論を深めるべきだった。

自民、公明が月内に改定される国家安全保障戦略など3文書に「反撃能力」の保有を明記することを決めたことは評価できる。政府は閣議決定する方針だ。その上で首相は来年1月上旬に訪米し、日米首脳会談で安全保障政策を確認する見通しである。与野党はわが国の防衛力の強化について十分な議論をしてもらいたい。

 安倍路線の象徴は憲法改正である。岸田首相は国会冒頭の所信表明演説で「国会の場において、これまで以上に積極的な議論が行われることを期待する」と述べた程度でその後の発言はなかった。衆院憲法審査会ではいまだに国民投票法を巡る参考人への意見聴取を行っている。緊急事態条項の新設についても自民、維新が共有しただけだ。首相には改憲に向けた覚悟と迫力が必要である。

首相は、出産育児一時金を来年度から過去最大の上げ幅で50万円とすることも決めた。育児支援の環境拡大は肝要だ。

ただ、それで少子化という国難の解決にはならない。首相に求めたいのは、家庭を持ち、子供を産むことの喜び、幸福感、意義を自分の言葉で語る勇気を持つことだ。

幅広い声聞き決断を

岸田政権の支持率は極めて低い。側近のみで決める政治でなく、幅広い声を聞いて決断することも大切だ。

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