トップオピニオン社説【社説】保育園児虐待 信頼損なった責任逃れの対応

【社説】保育園児虐待 信頼損なった責任逃れの対応

「さくら保育園」に家宅捜索に入る静岡県警の捜査員=4日午前、静岡県裾野市

静岡県裾野市の私立「さくら保育園」で、当時の保育士3人が園児の足をつかんで宙づりにするなどの体罰を繰り返していた問題で、県警が3人を暴行容疑で逮捕した。

子供を預けていた保護者の信頼を裏切る虐待であり、子供の心身に重大な影響を及ぼしかねない。実態解明と再発防止を徹底すべきだ。

15件の不適切な行為

市などによると、3人は1歳児クラスの複数の園児に対し、足をつかんで宙づりにしたり、バインダーやござで頭をたたいたりしたほか、「ブス」「デブ」などと暴言を吐いた。4歳児にもカッターナイフを見せて脅すなど計15件の不適切な行為が確認されていた。

3人は園の処分を受けて退職したが、とても保育士のやることとは思えない。子供の安全・安心を確保することは、保育士の重要な役割のはずである。その責任を放棄し、このような虐待を繰り返したことは決して許されない。

さらに悪質なのは、虐待を知った園の対応だ。園長は8月下旬に内部調査で暴行を把握しながら、10月には職員に口外しないよう誓約書を書かせるなどして隠蔽(いんぺい)を図ったとされている。

幼い園児は虐待について説明することはできず、園内には監視カメラもなかった。職員に口止めすれば虐待をなかったことにできると考えたのであれば、責任逃れと言うほかはなく、園長を務める資格はあるまい。

県と市は園の特別指導監査を行い、村田悠市長は犯人隠避の疑いで園長を裾野署に刑事告発した。ただ、市の対応にも問題がある。市は8月に園関係者から通報を受けていたが、問題について公表せず放置していた。公表したのは、11月末に地元紙の報道があってからだ。

村田市長は市長の給与2カ月分を全額カットするとともに、担当部長の更迭や職員の懲戒処分も行う方針を明らかにした。こうした処分を実施するだけでなく、なぜ公表が遅れたのか検証する必要もある。

保護者に市や園への不信感が広がるのは当然だ。保護者からは他の園に変更する申し込みが相次いでいるという。市はこうした要望に真摯(しんし)に対応しなければならない。

不適切な保育は他の自治体でも明らかになっている。富山市では、認定こども園の保育士2人が園児を物置に押し込んだりするなどの暴行を加えた容疑で書類送検された。仙台市では、認可外保育所の保育士3人が園児に下着姿で食事をさせて処分を受けた。こうした事案を受け、厚生労働省と内閣府は全国調査を行う方針を示した。

家庭保育を促す政策も

一方、人手不足で保育士の負担が重いことも事実だ。背景には、待機児童対策で施設の数が増えたことなどがある。もちろん、このことで虐待が許されるわけではないが、現状のままでは今後も不適切な保育が繰り返されるだろう。

保育全体への信頼が損なわれないよう、政府は早急に対策を講じるべきだ。それとともに、育児休業制度や育児手当などの充実で家庭保育を促す政策も検討してもらいたい。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »