【社説】岸田首相答弁 信教の自由に無理解は遺憾だ

法人被害者救済新法案の審議が大詰めを迎える中、岸田文雄首相は国会答弁で宗教団体への献金を巡るトラブルに関連し「自発的に献金しているように見えても、不安に乗じて教義を教え込まれ困惑させられて献金されたものだ」と述べ、同法案の取り消し権の対象となるとの認識を示した。信仰に「マインドコントロール」と疑いをかけ、信教の自由を干犯しかねない遺憾な発言である。

宗教批判につながる恐れ

法案は、法人に寄付・献金した本人が取り消しを求めない場合でも、家族に一定の範囲内で「取り消し権」を認めている。共産党や立憲民主党など野党は、法案にマインドコントロールを明記することを主張したが、マインドコントロールは疑似科学にすぎず、定義は困難なため見送られた。

だが首相は、「いわゆるマインドコントロールによる寄付は多くの場合、不安を抱いていることに乗じて勧誘されたものと言え、取り消し権の対象になる」とも答弁。「いわゆる」と前置きしながらも評価を与えており、あらゆる宗教の信仰、主義・思想の信念に対する批判に利用される恐れがある。主義・思想や信教の自由に無神経と言わざるを得ない。

法案は、安倍晋三元首相銃撃事件で逮捕された山上徹也容疑者が、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を信仰する母親の高額献金に対する被害感情を訴えたという警察側の情報に起因する。旧統一教会批判報道に火が付き、与野党の教団との「接点」をめぐる非難の応酬と並行した政治的産物だけに拙速に策定された。

この間、事件の不可解な点について国会での真相究明は全くなされず、被害を訴える元信者や被害訴訟に携わる弁護士らの主張に従って展開する政局に、岸田首相は譲歩を重ねてきた。その姿勢に行き過ぎや宗教への無理解を感じる宗教関係者も少なくない。新興宗教への偏見が根強い日本社会にあって、個人の信仰による献金を、家族の反対によって「いわゆるマインドコントロール」と断じられることに危惧を抱き、同法案への反対も出始めている。

「不安」は信仰の要素でもあり、離別や生老病死など人生の不安から宗教の門をたたく実情もある。世界の神社仏閣、大聖堂、修道院など歴史的な遺産の多くは熱心な信者たちの献金・寄進によってなされたものだ。

家族の中で信仰する者と信仰しない者との間に対立がある場合、首相答弁が後者の肩を持つことは否めない。もはや旧統一教会にとどまらず法人・団体への寄付・献金をする人々に反対する側を激励したことになる。

海外の警告に耳傾けよ

こうした日本の状況に対し、海外では信教の自由が脅かされているとして日本政府に抗議する事例も出ている。米ワシントンの国際宗教自由円卓会議は、国際人権規約に則り「信仰している宗教を理由に差別されない権利を尊重してきた」民主主義国日本が、中国やロシアなどのように宗教の自由を侵害する法律を導入すべきではないと警鐘を鳴らした。首相は海外からの警告に耳を傾ける必要がある。

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