大手電力会社が顧客獲得競争を制限するカルテルを結んでいたとされる問題で、公正取引委員会が中部電力、中国電力、九州電力などに課徴金納付を命じる処分案を通知した。課徴金の総額は約1000億円で過去最高となる。
ロシアによるウクライナ侵略の影響で燃料価格が高騰し、電力各社は電気料金の値上げを政府に申請している。契約者の理解を得ることが欠かせない中、不信を招いた責任は重い。
関電が各社に持ち掛ける
中部電と中国電、九電は2018年ごろから、事業者向けの販売を巡り、関西電力と互いに他社エリア内で低価格を提示するなどの営業活動はしないよう申し合わせ、競争を制限した疑いが持たれている。
処分案で最も課徴金額が高かったのは中国電で約700億円。中部電と同社子会社に計約275億円、九電に約27億円を求めている。巨額の課徴金納付が命じられれば、燃料費高騰や円安で悪化している各社の業績への影響は避けられない。
カルテルは関電が各社に持ち掛けて始まったとされる。関電は17年、高浜原発3、4号機を再稼働して電気料金を下げたことで、各社との顧客の奪い合いや価格競争が激化。収益が悪化したため、各社と協議し、顧客獲得競争をやめることを申し合わせたという。
関電は課徴金減免制度に基づき、違反を自主申告したため、処分対象から外れることになった。しかし、カルテルを主導したことは許されない。
電力業界では長年、大手各社が地域ごとに販売を独占してきたが、工場やオフィスビルなど事業者向け電力は00年から段階的に小売りが自由化され、エリア外でも販売できるようになった。16年からは家庭向けも自由化された。
カルテルは自由化の趣旨に反し、契約者を裏切る行為だ。公取委は今後、各社から処分案に対する意見を聞き、今年度中に正式に命令を出す方針だが、各社には原因究明と再発防止の徹底が欠かせない。
一方、自由化によるサービス向上と電力の安定供給を両立させることは大きな課題である。エネルギー価格の高騰に伴い、電力自由化で市場に参入した新電力各社の採算が大幅に悪化している。帝国データバンクによれば、21年度の新電力の倒産件数は単年度として過去最多の14件に上った。
倒産した新電力は大半が自前の発電所を持たず、主に日本卸電力取引所(JEPX)で電力を調達し販売してきた。だが、原油やガス価格の上昇につれて卸価格も高騰。大手に比べ格安な料金を売りにしてきた新電力は値上げに踏み切れず、経営悪化を招いた。新電力が倒産した場合、これまで契約を結んでいた企業は、次の契約先が見つかるまで大手電力傘下の送配電会社から電力の供給を受けるが、料金は通常よりも割高になる。
安定供給保つ制度設計を
また電力自由化による火力発電の減少は、夏や冬の電力需給逼迫(ひっぱく)を招いている。政府は自由化で生じた課題にも目を向け、安定供給を保つ制度設計を急ぐべきだ。