中国が日本を含む30カ国に非公式の「警察署」を置いていることに対し、欧州諸国で閉鎖を求める動きが起きている。主権侵害と人権弾圧の拠点を国内に放置することはできない。日本政府は実態を解明し厳正に対処すべきである。
反体制派を脅し帰国強制
スペインに本部を置く人権擁護団体「セーフガード・ディフェンダーズ」が発表した報告書によると、中国は東京やニューヨークなど海外30カ国54カ所に「海外警察署」を設置し、国外に滞在する汚職高官や反体制活動家を標的にし、脅迫などによって強制的に帰国させている。
報告によると、21年末までに1万人の「ハイレベル」の人物らが120カ国から帰国させられている。強制的に帰国させるため、中国国内の家族に対する脅し、嫌がらせ、拘束、収監などが行われたり、インターネットや工作員、代理人を通じて直接接触し「自発的に」帰国するよう脅したりする方法が取られている。それでも難しい場合は、誘拐することもあるという。
たとえ犯罪者を対象としていたとしても、外国での無許可の警察活動は主権侵害に当たる。中国の「海外警察署」は公安当局が在外中国人向けに設けた組織で、運転免許証更新などの支援を目的とし「海外110番」としてPRしてきた。しかし、そこが反体制活動家への人権弾圧の拠点となっていることが明らかとなった。
報告書を契機にオランダのフクストラ外相は、このような活動を許可していないとし、中国大使にロッテルダムなど国内2カ所にある「海外警察署」の即時閉鎖を要求。アイルランドも、中国側から事前申請を受けていないとして活動停止を中国大使館に求めている。
「海外警察署」の展開は欧州が中心だが、ニューヨークで1カ所、カナダで3カ所あり、日本にも東京に拠点が置かれていることが分かっている。
日本ではウイグル人の留学生が、中国在住の家族への脅迫などによって強制的に帰国させられるという事例が起きている。また昨年、香港や新疆ウイグル自治区での人権弾圧の被害者を追悼する集会を中国人が組織的に妨害し、10人が摘発されるという事件もあった。こうしたケースと「海外警察署」に関連があるかどうかも調査すべきだ。
この問題に対し、松野博一官房長官は「ご指摘の報道は承知しているが、私からお答えすることは差し控える」と述べるにとどまった。先月末にようやく林芳正外相が「仮にわが国の主権を侵害するような活動が行われているということであれば、断じて認められない旨の申し入れを行っている」ことを明らかにしたが、実態調査をどこまで行おうとしているのか疑問だ。
政府は徹底調査を進めよ
自民党の保守系議員グループ「日本の尊厳と国益を護る会」は、国会内で会合を開き、政府にさらなる対処を促すことを決めた。同会は実態解明に向け、スパイ防止法などを検討する分科会を設置し、来年3月までに提言をまとめる。日本の主権に関わる問題であることを考えれば、党そして何よりも政府が徹底調査に乗り出す責任がある。