自民、公明両党は、敵のミサイル発射拠点などを攻撃する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を認めることで合意した。これを受け、政府は国家安全保障戦略など3文書に保有を明記する。厳しい国際情勢に対応するとともに、国際常識にかなう防衛政策への転換に踏み切った意義は大きい。防衛力強化に慎重な公明党が反撃能力保有を容認した点も評価できる。
中露朝のミサイルに対処
合意の背景には、中露や北朝鮮のミサイル戦力強化の動きがある。これら諸国は変則軌道で飛翔するミサイルや、同時に多数の目標を攻撃できる飽和攻撃の能力を高めており、わが国のミサイル防衛体制では対処が困難になっている。そのため敵のミサイル発射拠点などを攻撃できる能力を持ち、抑止力を高めることが目的で、あくまでも防衛的措置である。
反撃能力保有を憲法が許容することは半世紀以上前に認められている。昭和31年に当時の鳩山一郎首相の国会答弁(船田中防衛庁長官代読)で「攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地を叩(たた)くことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能」であり「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」との見解が示されている。今回の合意もこの立場に拠(よ)っており、憲法の解釈を変更するものではない。
また両党合意では、容認される反撃能力は憲法と国際法の範囲内で行使されること、専守防衛を堅持し、先制攻撃は許されないとの考えに変更はないこと、さらに反撃能力を「万やむを得ない必要最小限度の自衛措置」と位置付け、攻撃対象も軍事目標に限定するなど防衛政策の根幹に変わりはないことが明確に示されている。極めて妥当な措置である。
然(しか)るに一部メディアでは、自公合意が憲法解釈を拡大、変更させるものとか、専守防衛を揺るがすなど誤解を招く論評が目に付く。反撃能力の保有は敵の攻撃をエスカレートさせるとの批判もあるが、脅威の増大に手をこまねいていることが平和に繋(つな)がるというのだろうか。抑止力の意義や必要性を無視した暴論だ。脅威増大に対処しなければ、国民の生命安全や国土を守るべき政府の責任放棄になる。
また周辺諸国との緊張を高めるといった煽情(せんじょう)的な報道は、脅威対象国に利用される危険がある。中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は、自公合意を「平和憲法と専守防衛に反し、アジア太平洋地域の平和と安定を深刻に脅かす」と懸念を表明し日本を牽制(けんせい)している。世論の分断や動揺を煽(あお)る攪乱(かくらん)工作に弄(ろう)されてはならない。
「トマホーク」の導入急げ
日本が危惧し憂うべきは、保有を認めても未(いま)だ反撃能力を保持してはいない防衛体制の脆弱(ぜいじゃく)な現状である。
国産ミサイルの改良が検討されているが、整備には時間を要する。米国の巡航ミサイル「トマホーク」の早急な導入が必要だ。敵基地に関する情報収集能力も欠かせない。政府・与党とも緊張感を持ち、一刻も早い反撃能力の整備構築に全力を挙げてもらいたい。