世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題で、永岡桂子文部科学相は、旧統一教会に対し宗教法人法に基づく「報告徴収・質問権」を行使した。
質問権行使は1995年に権限が創設されて以降、初めてとなる。教団の解散命令請求を視野に入れたものだが、信教の自由の抑圧に繋(つな)がらないよう、公正な調査、判断を求めたい。
旧統一教会に書類送付
文化庁が教団側に書類を送付し、提出を求めたのは、組織運営に関する文書、収支と財産に関する書類や帳簿など。回答期限を来月9日としている。永岡氏は、旧統一教会の不法行為責任などを認めた民事判決が計22件あり、賠償額が計約14億円に上ることなどを根拠に質問権を行使する意向を表明していた。それらについて、実態を正確に把握すべきだ。
教団側は「政府の意向に従い、誠意をもって対応する」としている。真摯(しんし)な対応と実態解明への協力を求めたい。
宗教法人法は解散命令の事由として「法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」などと規定している。宗教団体が組織的に法令違反を犯し、公共の福祉を著しく害するなど論外である。しかし、質問権行使が教団の「解散ありき」であってはならない。
岸田文雄首相は、解散命令請求の要件について当初、「民法の不法行為は入らない」と答弁していたが、一夜にして「入り得る」と法解釈を変更した。要件拡大の意図が見え隠れする。
旧統一教会を巡っては、友好団体が反共保守の理念を掲げ活動を展開してきたこともあり、左翼勢力や一部メディアが猛烈な批判を繰り広げた。支持率低下に悩む首相としては、この問題で厳しい姿勢を示し政権の浮揚材料にしたいところだろう。しかし、信教の自由という国家の基本に関わる問題を政争の具にすることは許されない。
首相は教団に関わる民事訴訟判決について「過去に解散を命令した事例と比較して十分に解散事由として認められるものではない」との見解も示している。解散命令の事由となる法令違反の有無、「組織性、悪質性、継続性」を持つものかどうか、曇りない目で見ていくべきだ。
特定の教団に対し、前のめりとも言える姿勢で強引な解釈、判断がなされれば、極めて悪しき前例をつくることになる。戦後日本の繁栄の基礎にあった信教の自由は揺らぎ、特定の宗教団体をターゲットにした攻撃が政治の場に持ち込まれれば、大きな混乱を招くことになる。
そもそも質問権が創設されたのは、無差別テロを行った地下鉄サリン事件などのオウム真理教事件が切っ掛けだった。だが安倍晋三元首相暗殺事件では、旧統一教会がテロの被害者になりかねない立場だった。
懸念される全体主義
全体の利益や秩序維持などを理由に、中国などでは公然と国家による宗教への弾圧が行われている。日本がこうした全体主義国家に変容しかねないとの欧州NGOの指摘もある。国際社会の評価にも耐え得るよう、宗教活動への規制は公共の福祉とのバランスをあくまで公正・慎重に勘案し行うべきである。 |