【社説】救済新法 憲法に抵触すれば将来に禍根

政府は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を受けた被害者救済新法の概要を与野党に提示した。個人から法人への寄付を対象に、個人が居住する建物の処分や借り入れによる資金調達の要求を禁止するなどの内容を柱としている。憲法で保障された信教の自由や財産権の侵害にならないよう慎重な検討を求めたい。

家族に取り消し権付与

新法は、寄付の勧誘に際し、勧誘をすることを告げず退去困難な場所に連れ出す、あるいは「霊感」を用いて現在や将来の不安を煽(あお)るなどの行為を禁止。こうした行為による意思表示は取り消すことができ、取り消し権を行使できる期間は、意思表示から5年、霊感を用いた場合は10年などとしている。

また寄付した本人が被害に遭った自覚を持たない場合は、民法の「債権者代位権」の考え方に基づき、子供や配偶者など家族が受け取るはずだった生活費などを保全するために取り消し権を行使できる特例を設ける。これには将来支払われる予定の養育費なども含むとしている。

旧統一教会への献金や寄付を巡る問題では、教団側も信者の家族、とりわけ「宗教2世」が不幸な境遇に陥った事実があることを重く見て改革に取り組んでいる。新法においては、何よりそういった悲劇が再び起きないようにすることが肝要だ。

ただ、いかなる宗教であれ、信者の献金や寄付は重要な宗教行為である。世界文化遺産にも登録されている世界各地の教会や宗教建築物などは、信者の献金や寄進なしでは生まれなかったし、それ故に尊いという面がある。宗教団体が行っているさまざまな慈善事業なども信者の寄付が支えている。

新法は寄付を求めること自体を禁じるものではないが、献金や寄進という宗教行為に制限を加えるものである。行き過ぎた規制は、信教の自由に抵触しかねない。自由社会の基礎となる内心の自由、信教の自由の保障と子供の養育義務や安定した家庭生活の保障という課題に折り合いを付けることが重要だ。

政府の概要に対し、野党の立憲民主党などは、いわゆる「マインドコントロール」下にある場合は、救済の要求がされず範囲が限定されるとし、マインドコントロールの定義をすべきとしている。

そもそも専門家の間でも定義が困難とされているマインドコントロールを政治家が定義するなどあってはならないことである。内心の自由に深く踏み込むことにもなる。日頃、立憲主義を唱える野党が、この問題では憲法の規範をほとんど顧みない議論を進めている。政府・与党批判のための「政局化」を企図したと言わざるを得ない。

安易な妥協は避けよ

松野博一官房長官は「今国会を視野にできる限り早く提出すべく検討を進めていきたい」と述べている。

閣僚の辞任ドミノで支持率が低下する岸田文雄内閣としては、救済新法に積極的な姿勢をアピールしたいところだろうが、野党への安易な妥協は、国の在り方の根幹に関わる問題で将来に大きな禍根を残すことを肝に銘じるべきだ。

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