ロシアのウクライナ侵攻後、北大西洋条約機構(NATO)域内のポーランドで露製ミサイル着弾による被害が発生したことは、ロシアとNATOが交戦する引き金となりかねない間一髪の事態だった。原因はウクライナを一方的にミサイル攻撃するロシアであり、無謀で危険な攻撃を即時停止すべきだ。
NATO軍と交戦の恐れ
NATO条約は締約国同士が集団的自衛権を発動する条項を持ち、加盟国1国への攻撃に加盟国全体で共同防衛に当たる。このため、NATO域内に初めてミサイルが着弾して犠牲者が出たことは、不測の事態を生みかねないものだった。
特に旧ソ連を仮想敵国とした経緯から、ロシアがウクライナのNATO接近を阻止しようとしたことがウクライナ侵攻の一因となっている。米国はじめNATO諸国はウクライナに対して武器供与など多額の支援を継続しているため、偶発的な事態でも露軍の出方次第でNATO軍と交戦することになれば、懸念された第3次世界大戦をも誘発しかねないものだ。
当初、ポーランド東部でウクライナ国境付近のプシェボドフに露製ミサイルが着弾して2人が死亡したことについて、ポーランドやウクライナでは露軍がウクライナに向けて行ったミサイル攻撃の一部が外れたものとみていた。
ポーランドは非常事態に対応するため緊急の安全保障会議を招集し、「領土保全、政治的独立または安全が脅かされていると認めたときは、いつでも協議する」とするNATO条約4条発動の構えを見せた。
また、国土を侵略されているウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアのミサイルがポーランドに着弾した」と非難した。ロシアに非があるものの、激しい怒りは火に油を注ぐ結果になりかねない。
不幸中の幸いは、各国首脳がインドネシアで開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で会していたこともあり、情報収集と各国の意思疎通が早かったことだ。
米政府当局者はロシアから発射されたミサイルを迎撃するためにウクライナが撃った地対空ミサイルが着弾したとの見方を示し、着弾に対処する先進7カ国(G7)緊急会合の後にバイデン米大統領はロシアから発射された可能性は低いと語った。またドイツのショルツ首相は「拙速な結論」は回避すべきだとして、冷静な姿勢を示した。
ポーランドのドゥダ大統領は着弾したのはウクライナ軍の地対空ミサイルの可能性が高く、ポーランドへの攻撃だったことを示す証拠はなく、不幸な事故との考えを示し“軌道修正”した。またロシア国防省は、ウクライナ軍の同ミサイル「S300」が着弾したと指摘した。
すぐに発射を止めよ
だが、着弾した当時、露軍はウクライナの首都キーウや西部リビウなど同国全土をミサイル攻撃しており、700万戸以上の世帯が停電に見舞われ、15カ所のエネルギー関連施設が破壊された。ウクライナは市民を守るためミサイル防衛に臨まざるを得ない。ロシアは即刻攻撃を止めるべきである。