バイデン米大統領と中国の習近平国家主席がインドネシア・バリ島で初の対面による首脳会談を行った。会談では、競争激化が軍事衝突を招く事態を避けるため、意思疎通の維持で一致した。ただ台湾をめぐる議論は平行線に終わっており、バイデン氏は中国に対する警戒を強化する必要がある。
台湾問題で強硬な習氏
バイデン氏は台湾海峡の平和と安定を損なうとして、中国の「威圧的で攻撃的な行動」を批判。これに対し、習氏は台湾問題について「越えてはならないレッドラインだ」と主張し、強硬姿勢を崩さなかった。
習氏は10月の中国共産党大会で、台湾統一に向けて「武力行使を決して放棄しない」と明言した。米政府からは、早ければ年内にも台湾有事の可能性があるとの見方も出ている。力による一方的な現状変更で地域の安全を脅かすことは許されない。バイデン氏が習氏を批判したのは当然である。
一方、気候変動や途上国の債務問題、食料安全保障などに関しては、両首脳は取り組みを深化させるため、高官に権限を与えることで合意。ブリンケン米国務長官の訪中で一致した。
ただ気掛かりなのは、バイデン氏が会談後に中国との関係は「新冷戦」ではないと強調したことだ。確かに、軍事衝突など不測の事態は回避しなければならない。しかし、自由、人権、法の支配といった普遍的価値を共有する米国などの民主主義国家は、共産党一党独裁体制の中国と厳しく対峙(たいじ)せざるを得ないはずである。
台湾問題だけでなく、中国の新疆ウイグル自治区などにおける少数民族への人権弾圧も極めて深刻だ。中国共産党政権は少数民族独自の宗教や文化を否定し、ウイグルでは100万人以上が「再教育」の名目で強制収容所で拘束されている。
習氏は「中国には中国式民主があり、各国の国情に合わせるべきだ」と述べ、米欧の民主主義的価値観を受け入れない姿勢を明確にした。バイデン氏は、対外的には覇権主義的な動きを強め、国内では人権弾圧を進める習氏にもっと厳しい態度で臨むべきだ。
共産党大会で異例の3期目を始動させた習氏には、バイデン氏との会談で政権の正統性をアピールする狙いがある。8月のペロシ米下院議長の台湾訪問直前に行われた電話会談で、習氏は「火遊びすれば、身を滅ぼす」と警告したが、この日は和やかな雰囲気を演出。関係改善に意欲を見せた。
両首脳はロシアのウクライナ侵略についても意見交換し、ウクライナでの核兵器使用とその威嚇への反対を表明した。習氏もこの点では米側と足並みをそろえた形だが、中国は米欧による対露制裁を批判しており、侵略そのものを非難しているわけではない。米中の立場には大きな隔たりがあることに留意する必要がある。
多国間の連携で抑止を
米政府は10月、中国に対する半導体規制を発動するなど圧力を強めている。安全保障面でも、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」や日米韓の連携を生かして対中抑止に尽力すべきだ。