バイデン米政権の任期前半の評価が問われた中間選挙の投開票が行われ、野党・共和党が連邦議会下院でリードしている。上院では与党・民主、共和両党が接戦となり、大勢判明が大幅にずれ込む可能性がある。
インフレや中絶が争点
今回の選挙では、上院(任期6年、定数100)の約3分の1に当たる35議席と下院(任期2年、定数435)の全議席が争われ、全米50州のうち36州の知事選も行われた。
両院で共和党が多数を占める場合、バイデン政権は早くもレームダック(死に体)化し、民主党は逆風にさらされて2年後の大統領選での政権交代が現実味を帯びることになる。民主党が上院で勝利しても下院で少数派に転落すれば、いわゆる「ねじれ議会」となり、バイデン大統領の残り任期の政権運営はこれまで以上に難しくなる。
中間選挙は現職大統領と与党の過去2年間の政治に対する信任投票の意味合いが強く、政権に厳しい評価が下されるケースが多い。バイデン氏と民主党には民意を重く受け止め、任期前半の政策を謙虚に振り返ることが求められよう。
選挙では、歴史的なインフレへの対応や人工妊娠中絶の是非などが主な争点となった。特に6月、最高裁が中絶を憲法上の権利とした1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す画期的な決定を下したことで、このテーマは米国を二分するものとなった。
民主党はこれまで中絶の権利を保障する「女性の健康保護法案」の成立を目指してきた。この法案は事実上、出産までの全期間における中絶を可能にする内容となっている。昨年9月に下院を通過後、今年5月に上院で否決されたが、下院で218人、上院で46人の民主党議員が賛成票を投じた。
しかし、法案は世論と乖離(かいり)していると言っていい。6月下旬のハーバード大などの世論調査によると、米国民の72%が妊娠15週以降の中絶は禁じられるべきだと回答。臨月の手前の9カ月目まで許可されるべきだと答えたのはわずか10%だった。
米国の民間団体によると、1921年から2015年までの米国の中絶件数は、ロー対ウェイド判決を境に急激に増加して5783万件に達した。もちろん妊婦が中絶を選択するのは、健康上の問題をはじめさまざまな理由がある。ただロー対ウェイド判決に、安易な中絶を増やし、多くの胎児の命を奪った側面がなかったか振り返ることは必要だ。
一方、共和党ではトランプ前大統領が約200人の候補に推薦を出し、これらの候補が多数当選した。共和党は選挙戦で、インフレを招いた責任はバイデン政権の政策にあるとの批判を展開し、こうした戦略が奏功したと言える。
支持拡大必要な前大統領
トランプ氏は15日にも24年大統領選への出馬を正式表明する可能性がある。
ただトランプ氏の大統領復帰をめぐっては、その過激な言動のために共和党穏健派や無党派層の支持獲得に不安も残る。支持をいかに広げるかが今後の課題となろう。