ドイツのショルツ首相が中国を公式訪問し、習近平国家主席と会談した。先進7カ国(G7)首脳の訪中は、新型コロナウイルスの世界的感染が始まった2020年以降で初めてだ。
習氏にはドイツから異例の3期目への支持を取り付け、日米欧の対中連携を揺さぶる狙いがあろう。連携にくさびを打ち込まれないよう、ショルツ氏には慎重な対中外交が求められる。
経済貿易協力の深化図る
ショルツ氏は、米主導の半導体輸出規制など経済・貿易分野で進める中国との「デカップリング(分断)」に改めて反対を表明。「中国と引き続き経済貿易協力を深化させたい」と呼び掛けて「欧州と中国の関係発展推進にドイツはあるべき役割を果たしたい」と約束した。
昨年12月に首相に就任したショルツ氏は、メルケル前政権による中国偏重のアジア政策の修正を掲げ、日本や韓国、オーストラリアなどとの関係を重視してきた。軍事面でもインド太平洋への関与を強め、ドイツは今年8月から9月まで豪州で実施された空軍演習に参加した。
一方、経済面では10月に国内最大の港湾であるハンブルク港に中国企業の出資を許す決定を下した。ドイツの対中依存度は欧州の中でも大きく、80万人が働くとされる自動車産業では、BMWの販売台数の3割、フォルクスワーゲン(VW)の4割が中国で購入されている。ショルツ氏は今回、大規模な財界代表団を連れて訪中した。
外交・安全保障面では中国を牽制し、経済面では協力する「政冷経熱」の関係を目指しているとみていい。だが、中国に取り込まれることはないのか。軍事・経済両面で影響力を増す中国に共同対処してきた日米欧が切り崩されないか憂慮される。
ドイツはウクライナ侵略でロシア頼みのエネルギー戦略を転換せざるを得なくなった。中国への依存が進めば、同様の事態に陥る恐れがある。中国が西側諸国との経済関係の中で技術を盗み取って軍備増強に利用してきたことも忘れてはなるまい。
もう一つ気掛かりなのは、ショルツ氏が習氏に同調し、バイデン米大統領が「民主主義国対専制主義国」と呼ぶ構図を念頭に「陣営対立に反対だ」と述べたことだ。確かに、世界を二分する対立が望ましいとは言えない。だが自由や人権、法の支配などの価値観を共有する民主主義国としては、力による一方的な現状変更を試みる中露両国のような専制主義国とは厳しく対峙(たいじ)せざるを得ないはずである。
ショルツ氏は李克強首相との共同会見で「台湾の現状変更は、平和的かつ相互了解に基づいてのみ起こるべきだ」と指摘した。しかし台湾統一に向けて武力行使を放棄しないとしている中国との関係強化は、侵攻を容認しているとの誤ったメッセージを送ることになりかねない。
日本は対中警戒求めよ
日独両政府は外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開催し、自衛隊と独軍の間で燃料や弾薬を相互に融通するための協定交渉開始へ調整を進めることで合意した。日本はドイツと安全保障と経済の両面で連携を深めるとともに、中国への警戒を強化するよう求めるべきだ。