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【社説】文化の日 ポストコロナの文化創造へ

きょうは文化の日。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)が続き、その収束時期はまだ不透明ではあるが、これまで制限されてきたさまざまな文化活動も元に戻りつつある。

本格的な活動再開でポストコロナの新しい文化創造の時代を開いていきたい。

伝統継承と新しい変化

そういう中、歌舞伎の市川海老蔵さんが十三代目市川團十郎を襲名したのは、音楽や舞台芸術の本格的再開を象徴する出来事と言っていい。本来は2020年に襲名する予定だったが、新型コロナの影響で2年間延期されてきた。元禄時代から続く江戸歌舞伎の大名跡が9年ぶりに復活することで、歌舞伎界もまた新しい時代を迎える。

歌舞伎という伝統芸能は、様式はもちろん、名跡、芸、型などが継承されることで続いてきた。しかし、もともと江戸の町人が生んだ芸術であり、人々の人気に支えられてきたという面からも、必ずしも保守的ではない。時代と共に変化し、趣向を凝らしてきた歴史がある。

その精神は今も受け継がれ、特に若手俳優たちによるジャンルを超えたコラボレーションへの挑戦に表れている。宮崎駿監督のアニメが原作の新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」も、團十郎さんと同世代の尾上菊之助さんらによって演じられている。

古典の伝統を継承し、その土台の上で新しい創造がなされてきた。そのような創造の機運が高まることを期待したい。

戦後、日本は「文化国家」を目指してきた。しかし、軍国主義国家へのアンチテーゼの意味合いもあり、必ずしも文化に対する深い認識に立ったものではなく、民族的な伝統色の濃い文化財や行事への評価は高くなかった。それが、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産や無形文化遺産への登録をきっかけに、改めて評価されるようになった。

われわれが普通の年中行事として続けてきた盆踊りなどの民俗芸能「風流踊」も、無形文化遺産に登録される見通しとなった。身近なところにある文化の価値を再認識するところから、その継承とそれを土台とした創造が可能となる。

インターネットやSNSなどの活用によって、今や魅力的な文化は一気に世界に広がる時代となった。そういう中で、文化をソフトパワー、いわゆる「文化力」として重視する傾向が強まっている。英国のエリザベス女王の死が世界中の人々から惜しまれたのは、その人柄もさることながら、英王室が継承してきた一種の王室文化の力と言っていい。

文化はある特定の地域で集団の生活の中から生まれ育まれたものであり、個別的、個性的な特色を持っているため、普遍的な文明と対比される。しかし、本来個別的な文化がソフトパワーとなるのは、そこにもともと普遍性が備わっていたためでもある。個別と普遍は単純な対立概念ではない。

日本文化の積極的発信を

日本文化を積極的に世界に発信すべきである。それによって、その普遍的な価値をわれわれが確認し、伝統の継承に繋(つな)がるのである。

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