岸田文雄首相はオーストラリアを訪問し、アルバニージー首相と会談した。今回の首脳会談は、日本が「準同盟国」と位置付ける豪州との結束を一段と強化することに狙いがあった。会談後、両首脳は日豪の今後10年間の中長期的な戦略を示す新たな安保共同宣言に署名した。
緊急事態の対応協議
新安保共同宣言は、テロや大量破壊兵器の拡散防止、平和維持活動に関する協力が中心だった2007年の宣言と異なり、(名指しを避けつつも)増大する中国の脅威に日豪が共同対処するための指針となるものだ。
中でも注目されるのは、平時のみならず危機・有事も想定し、日豪の主権や地域の安保上の利益に影響する緊急事態が発生した場合、両国が相互に協議し対応措置を検討することが明記された点である。対応措置には外交上の連携や経済制裁などに限らず、軍事的なオプションも含まれるものと解される。わが国が米国以外の国と緊急時の対応協議を行うことを初めて定めたもので、日本の安全保障政策にとって画期的な宣言となった。
中国の膨張を背景に、日豪の防衛協力では21年11月に海上自衛隊の護衛艦が豪軍艦艇を警護する「武器等防護」を実施。今年1月には「自衛隊と豪軍の相互往来に関する円滑化協定(RAA)」を締結するなど着実な歩みを見せてきた。今回の新共同宣言で、両国の協力関係はさらに大きく前進したと言える。
新宣言の「緊急事態」とは、台湾海峡危機や東・南シナ海での中国の威嚇行動などが想起される。先の共産党大会で習近平国家主席は、台湾への武力行使を放棄しないと公言。また党の規約に「台湾独立に断固として反対し、抑え込む」との文言が盛り込まれるなど中国は台湾を武力併合する意志を強めている。
ギルデイ米海軍作戦部長も、侵攻の時期が予想より早まるとの見解を示すなど台湾海峡の危機は日増しに高まっている。一方、中間選挙を控え、米国のバイデン政権は内政に軸足を置かざるを得ない状況にある。
そうした中、日豪両国が中国を抑止する力強い宣言を発したことは、アジア太平洋の平和と安定に大きく寄与するものである。中国は今年4月、南太平洋のソロモン諸島と安保協定を締結した。海洋国家の日豪が南北に連なる強力な“自由と民主の防衛ライン”を築くことは、中国の太平洋進出を阻む強力なバリアともなる。日米豪印の連携推進や経済安全保障、資源エネルギー分野の協力進展で一致したことも重要な成果だ。
岸田首相は会談後の共同記者会見で「日豪の特別な戦略的パートナーシップは新たな次元に入った」と述べた。日本は豪州との関係を「準同盟」から日米同盟に次ぐ「海洋同盟」へと格上げすべき時期に来ている。
防衛協力の一層の深化を
日豪海洋同盟を構築し、機能発揮させるには、岸田首相がアルバニージー氏に示した「反撃能力(敵基地攻撃能力)」保有を含め5年以内に日本の防衛力を抜本的に強化するとの決意を実行に移すとともに「自由で開かれたインド太平洋」実現に向け、両国の防衛協力をさらに深化拡大させる努力が必要である。