
リズ・トラス英首相が辞任する意向を表明した。看板政策の大型減税が金融市場の混乱を招き、その後の対応で不信が高まったためだ。国際秩序を脅かす中国やロシアと対抗してきたトラス氏の辞任は残念だが、後継首相は国内の混乱を早期に収拾し、トラス氏と同様に中露に厳しい姿勢で臨む必要がある。
大規模減税案で混乱招く
トラス政権は9月、総額450億ポンド(約7・6兆円)の大規模減税を発表したが、財源の裏付けがなかったために財政不安が広がり、債券安、通貨安、株安の「トリプル安」を招いた。さらに当時の財務相を更迭したことで「責任転嫁」との批判を浴び、野党に加え与党・保守党内からも辞任を求める圧力が高まっていた。
トラス氏はジョンソン前首相の辞任に伴う保守党の党首選で勝利し、9月に首相に就任したばかりで、在任期間は英史上最短になる。次期首相となる保守党党首を選ぶ選挙は簡略化されるもようで、今月28日までに結果が判明する見込みだ。後任候補には先の党首選でトラス氏と決選投票を争ったスナク元財務相のほか、ウォレス国防相らの名前が挙がっている。
一方、トラス氏は外交面ではウクライナを侵略するロシアへの強硬姿勢を貫いた。就任初日にウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談して「全面支援」の提供を約束した。これはウクライナ支援で主導的役割を果たしたジョンソン氏の路線を継続したものだ。
やはり電話で会談したバイデン米大統領とは「ロシアのプーチン大統領をウクライナで失敗させるために取り組む」ことで合意した。英国は米国と共に民主主義陣営を代表する国家だ。国際法に違反してウクライナを侵略し、多くの民間人を虐殺したロシアを撤退させ、責任を追及するのは当然の役割である。トラス氏の後任首相はジョンソン、トラス両氏の外交方針を引き継いでロシアへの圧力を強めるべきだ。
トラス氏は中国にも強い警戒心を持っていた。9月に米ニューヨークで岸田文雄首相と行った日英首脳会談では、中国を念頭に東・南シナ海での力による現状変更に「深刻な懸念」を共有した。
昨年9月には英海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」が日本に初寄港するなど、英国はインド太平洋への関与を強めている。日本は英国と「準同盟国」としての関係構築を進めており、首脳会談では自衛隊と英軍の相互訪問時の法的基盤となる「円滑化協定(RAA)」の早期署名や、次期戦闘機の共同開発の合意に向けた協議の加速で一致した。
日本は安保協力進めよ
岸田首相はトラス氏の辞任表明を受け、英国について「ウクライナ侵略への対応や『自由で開かれたインド太平洋』構築への協力で、引き続き緊密な関係を維持していかなければいけない」と述べた。中国の習近平国家主席が台湾統一に向けて「武力行使を放棄しない」との方針を示す中、民主主義の価値観を共有する日英両国が安全保障協力を進めて中国を抑止し、地域の安定につなげる必要がある。





