岸田文雄首相が、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対し、宗教法人法に基づく調査を永岡桂子文部科学相ら関係閣僚に指示した。同法が規定する「質問権」の行使は初めてとなるが、「信教の自由」に関わる問題だけに、法に則(のっと)った公正な調査が望まれる。
首相が一日で解釈を変更
宗教法人法は「著しく公共の福祉を害する」「宗教団体の目的を著しく逸脱した」場合、裁判所は文科相らの請求を受けて「解散を命ずることができる」と規定している。政府は年内に調査を開始して解散命令を請求するかどうか判断する。
岸田首相は調査に踏み切った理由として、2016年と17年の民事裁判で組織的な不法行為責任を認定した判決があり、政府の合同電話相談窓口に9月末時点で1700件以上の相談が寄せられたことを挙げている。
今後、宗教法人審議会委員の意見を聞き、質問権を行使する際の基準を策定することになるが、前例のない質問権の行使に当たっては「信教の自由」と「公共の福祉」の双方を尊重した慎重な姿勢が求められる。1700件以上の相談についても、中身を精査する必要がある。
教団側は「正式な調査依頼があれば真摯(しんし)に受け止め誠実に対応したい」としている。その通り実行してほしい。教団は高額献金が家庭崩壊に繋(つな)がったことから改革方針を出している。家庭の価値と幸福を掲げる教団から崩壊家庭を生んだことを猛省し、改革の実を示すべきだ。
いずれにしても政府は、法に則り公正に進める必要がある。政治的な思惑やポピュリズム的な動機でなく、大局を見据えての対処が求められる。
岸田首相は19日の参院予算委員会で、旧統一教会の解散命令の要件について「民法の不法行為も入り得る」との見解を示した。前日の衆院予算委では「入らないという解釈だ」と述べていた。一日にして法解釈をがらりと変更させたことになる。
憲法で保障される「信教の自由」を尊重する目的で制定され、宗教行政の基本となる宗教法人法の場当たり的な解釈の変更は、誤りである。これが前例となれば、特定の宗教団体を標的に攻撃し、あわよくば解散へ追い込もうという動きが将来、出てくる恐れがあり、予測不能の混乱すら招きかねない。
首相は、刑事裁判の判決が確定する前でも請求の手続きに入ることはあり得るとの考えも示した。司法の判断を軽く見る姿勢は、法治主義の精神の根幹を揺るがすものであり、強い危惧を抱かざるを得ない。
旧統一教会問題は、同教団や関連団体が反共保守を掲げ積極的な活動を展開していたことから、共産党はじめ左翼リベラル勢力の攻撃の対象となっており、政治的な側面が濃厚だ。政争の具にすべきではない。
宗教者らと法整備検討を
霊感商法に関する消費者庁の有識者検討会は、不当な献金(寄付)要求を禁じるための法制度の検討などを提言した。献金は重要な宗教行為であるのに、検討会に宗教者や学術専門家が入っていないのは基本的な不備と言わざるを得ない。法整備検討には宗教者らの参加が必須だ。