【社説】9月日銀短観 円安是正、賃上げ促す政策を

ロシアのウクライナ侵攻を背景とする原材料価格の高騰と急速な円安進行が広企業の景況感悪化に拍車を掛け、景気に一段と下押し圧力がかかっている
–日銀が発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)が示す景気の現状である。

政府・日銀は日本経済の本格的な回復へ、これ以上の円安進行を阻止する措置と、物価上昇に見合う賃上げを企業に促す政策に知恵を絞ってほしい。

物価高で景況感悪化

企業の景況感を示す業況判断指数(DI=「良い」と答えた企業の割合から「悪い」を引いた割合)は大企業製造業でプラス8と前回6月調査から1ポイント悪化し、3期連続の悪化となった。

中国・上海のロックダウン(都市封鎖)解除などで半導体不足や物流混乱の影響が緩和するといった好材料があったにもかかわらず、原材料高と円安による仕入れコストの上昇がそれ以上に企業の景況を直撃したからである。自動車などで景況感が改善したが、木材・木製品や化学など素材産業を中心に、16業種中9業種で業況が悪化した。

一方、大企業非製造業は1ポイント改善した。新型コロナウイルス感染に伴う厳しい行動制限がなくなったことや、販売価格への仕入れコストの転嫁が進んだことで宿泊・飲食サービスや建設などの景況感が回復したためだが、先行きは原材料高への懸念などから3ポイント悪化を見込む。

全規模全産業の2022年度想定為替レートは1ドル=125円71銭であり、足元の144円台前後の円相場は20円近い円安で、それだけコストアップ要因になっているのである。

この円安と原材料高により、企業の価格判断DI(「上昇」と答えた企業の割合から「下落」を引いた割合)は、大企業製造業で仕入れ価格、販売価格とも約42年ぶりの高水準。企業の1年後の物価見通しも全規模合計で前年比2・6%上昇(前回調査時点は2・4%上昇)と、14年3月の調査開始以来、最も高い水準である。

輸出企業は円安、サービス業はコロナ感染の一服という追い風も物価高に打ち消され、それが生活関連物資ばかりでなく、電気・ガスなどの値上げを通じて家計にも影響を及ぼし、景気への一段の下押し圧力となっているのである。

ただ22年度経常利益計画は大企業製造業、大企業非製造業とも前回調査より上昇修正され、22年度設備投資計画も大企業全産業で前年度比21・5%増と前回18・6。%増)から上昇修正された。販売価格への価格転嫁が進むとの見通しからだが、心強い限りであり成長の牽引(けんいん)力が健在であることを示している。残るは家計の消費増に結び付く賃上げをはじめとした「人への投資」をいかに増やすかである。

政府は速やかな実施を

岸田文雄首相は臨時国会の所信表明演説で、物価高対策や「構造的な賃上げ」に全力を挙げる方針を表明した。

10月だけでも6700品目の食品が値上げとなる状況である。政府・日銀に何より求められるのは、これ以上の円安を断固阻止するという措置と企業に賃上げを促す政策の速やかな実施である。

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