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【社説】首相所信表明 国難の危機示すも気迫欠く

衆院本会議で所信表明演説を行う岸田文雄首相=3日午後、国会内

岸田文雄首相が臨時国会の開会に当たり所信表明演説を行った。冒頭、岸田首相は経済、安全保障環境の悪化など「国難に直面している」との危機感を示したが、具体策はあまり語らなかった。

安倍晋三元首相が常に強調した憲法改正や北朝鮮による拉致問題の解決に触れたものの気迫を欠き、就任以来、取り入れてきたことわざや偉人の言葉を省くなど深みのない演説となった印象だ。

懸念される対中関係

岸田首相は「経済再生が最優先課題だ」とし、自らの看板政策である「新しい資本主義」を実現するため、物価高・円安への対応や構造的な賃上げ、成長のための投資と改革に取り組む姿勢を強調した。ただ、燃料高騰や円安による電力料金の上昇に「前例のない対策を打ち出す」としたものの、料金抑制の制度設計はこれからだ。賃上げも民間の協力が不可欠で「青写真」を描いているにすぎない。

一方、評価したいのは、覇権主義を強める中国や北朝鮮による安全保障環境の悪化に対して「わが国の領土・領海・領空を断固として守り抜くため、抑止力と対処力を強化することは最優先の使命である」と言い切った点だ。

ただ、そのための防衛力の内容の検討や予算規模の把握は「予算編成過程で結論を出す」と先送りした。国民の生命と財産を守ることを最重視し現実的な検討を加速してもらいたい。

懸念されるのは中国との関係に変化がないかだ。首相は日中関係について「建設的かつ安定的な関係を日中双方の努力で構築していく」と述べ、対話を重ねる姿勢を示した。東シナ海や南シナ海への進出や台湾有事への対応が迫られている中で対話戦術に傾斜するのは危うい。年末までに策定される国家安全保障戦略の基本は、日米同盟を基軸とした外交・安保戦略でなければならないのは当然だ。

「自由で開かれたインド太平洋」を推進するため、日米豪印やASEAN(東南アジア諸国連合)、欧州、大洋州との連携を強化するとも語ったが、そのための「新たなプラン」とはどういうものか、具体像を示してもらいたかった。

「政治姿勢」の項目の中で、首相は国葬儀と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)への対処について語った。国葬儀については「厳粛かつ心のこもったものとなった」とし、海外からの参列者に「礼節を持って丁寧にお応えすることができた」との首相の評価に同感だ。

他方、旧統一教会問題に関しては「国民の声を正面から受け止め、説明責任を果たしながら信頼回復を図る」と語った。信頼回復の前提には、被害の実態について一部メディアが恣意(しい)的に誤って伝えていなかったか否かを正確に把握して説得力のある説明をし、被害者の救済には万全を尽くす必要がある。

世論に迎合するな

首相は「厳しい意見を聞く姿勢にこそ、政治家岸田文雄の原点がある」とも語った。だからと言ってメディアがつくり出した厳しい世論に迎合するようでは信頼回復はできないことを肝に銘じるべきである。

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