トップオピニオン社説【社説】米太平洋戦略 民主主義諸国は関与強化を

【社説】米太平洋戦略 民主主義諸国は関与強化を

バイデン米政権は、米国として初めて「太平洋パートナーシップ戦略」を策定した。この中で「中国による経済的威圧」が地域の平和や繁栄を損なう危険があると指摘し、南太平洋地域で影響力拡大を図る中国を名指しで非難した。

地域の安定に向け、米国は日本などと協力して中国の覇権主義的な動きを抑えるべきだ。

中国への対抗姿勢鮮明に

この戦略は2月に打ち出した「インド太平洋戦略」を補完するものだ。「米国の繁栄と安全保障は、太平洋地域が自由で開放的であることにかかっている」と強調し、中国について「地域の、ひいては米国の平和、繁栄、安全保障を弱体化させる危険性がある」と警戒感を示した。

中国は4月にソロモン諸島と安全保障協定を締結し、ソロモンの軍事拠点化が懸念されている。5月には王毅国務委員兼外相がフィジーで島嶼(とうしょ)国10カ国と外相会合を開催するなど、南太平洋への進出を強めている。

背景には、米国の影響力を弱めて軍事バランスを変え、オーストラリアを封じ込めて台湾侵攻の環境を整えるという思惑がある。ソロモンとキリバスは2019年、台湾と断交して中国と国交を結んだ。

こうした情勢を受け、バイデン政権は島嶼国への関与を拡大する方針だ。戦略には、米国自身の協力強化に加え、日本、豪州、インドとの4カ国による「クアッド」など多国間枠組みと島嶼国が連携し、取り組みを進めていくことを目標として明記。島嶼国を「自由で開かれたインド太平洋」構想に取り込んで、中国への対抗姿勢を鮮明にする狙いだろう。

具体的な取り組みとしては、米国がソロモン、トンガ、キリバスに大使館を開設するほか、不審船などを監視する「海洋状況把握」の能力構築を支援する。気候変動に伴って増加している災害への対応能力向上には、日米英豪とニュージーランドの5カ国が今年6月に立ち上げた協力枠組みで取り組むことも打ち出した。さらに経済協力支援のため、8億1000万㌦(1170億円)を超える資金を拠出すると表明した。

フィジーでは7月、地域機構「太平洋諸島フォーラム」の首脳会議が開かれ、「民主主義の原則」と「人権」を重視する姿勢を明確にして中国とは一定の距離を置く構えを示した。こうした姿勢は評価できるが、中国が影響力を強めれば取り込まれる恐れもある。

米国と太平洋島嶼国はワシントンで首脳会議を開いて「領土の一体性や主権を損なう、いかなる試みにも反対する」と明記した共同宣言を採択した。地域の安定と発展のためには、米国をはじめとする民主主義諸国の関与強化が欠かせない。

日本も外交努力重ねよ

日本は1997年以降、太平洋の島嶼国首脳を招いて「太平洋・島サミット」を3年ごとに開催してきたが、中国が進出を強める中、この地域の情勢は日本の安全保障にも大きな影響を与えるようになっている。こうした現状を踏まえ、日本は太平洋島嶼国との一層の関係強化のため、米国と歩調を合わせて外交努力を重ねる必要がある。

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