【社説】原子力規制委 安全重視しつつ円滑な審査を

原子力規制委員会の発足から10年を迎えた。原発の安全性を最優先する姿勢は正しいが、あまりにも慎重な審査で再稼働が遅れ、電力需給の逼迫(ひっぱく)などを招いている。

安全性を重視しつつ円滑な審査を行って再稼働を進め、電力の安定供給につなげることが求められる。

再稼働の遅れで電力逼迫

東京電力福島第1原発事故を受け、規制委は民主党政権下の2012年9月に発足した。福島県出身で、元日本原子力研究所副理事長だった田中俊一氏が初代委員長に就任。13年7月には、重大事故対策の義務付けや地震・津波想定の厳格化などを盛り込んで「世界一厳しい」とされる新規制基準に基づく審査を開始した。

ただ自然災害への対策を大幅に強化したことは、原発再稼働が遅れる大きな原因となっている。この10年、電力各社は27基の審査を申請したが、「合格」したのは17基、再稼働したのはこのうち10基のみだ。

背景には、電力会社が安全性の証明に時間を要していることがある。また規制厳格化による安全対策費用の増大で、規制委発足後に再稼働を諦め、廃炉となった原発は15基(福島第1を除く)に達した。

再稼働の遅れで電力需給が逼迫している。今年3月には天候の悪化と火力発電所の停止で東北、東電管内で逼迫警報が発令され、6月には猛暑で東電管内で逼迫注意報が出された。

こうした状況やウクライナ危機を受け、岸田文雄首相は次世代型原発の開発や原発の運転期間延長などに向け検討を進める考えを示した。既に審査に「合格」した7基の原発を来夏以降に再稼働させることも目指す。

電力需給逼迫を老朽火力発電の稼働で乗り切るにしても、故障する恐れがあり、地球温暖化対策にも逆行する。電力の安定供給には、温室効果ガスを排出せず、安価で安定的に発電できる原発の活用が不可欠だ。

規制委は独立性の高い三条委員会だが、それでも国の行政組織の一つである。原発の審査長期化が国民の利益を損なっていることは看過できない。原発の安全性向上を電力会社に求めるのは当然だとしても、そのために過重な負担をかける傾向があるとすれば、非現実的であり、改善する必要がある。

審査が効率的に進まない原因として、電力会社と規制委とのコミュニケーション不足も指摘されている。これまで独り善がりになっていなかったか検証すべきだ。

原発再稼働が遅れる中、電力会社では運転技能の維持や継承が大きな課題となっている。事故によるイメージの悪化によって学生の「原子力離れ」も続いている。

このままでは将来の原発を担う人材が不足し、安全に影響する恐れも出てくる。政府が原発への「依存度低減」から積極的な活用へと方針転換した以上、規制委も足並みをそろえる必要がある。

 規制委再生へ尽力を

規制委では委員長が更田豊志氏から山中伸介氏に交代した。山中氏は規制委再生に向け尽力すべきだ。

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