バイデン米大統領が米CBSのニュース番組のインタビューで、中国が台湾に侵攻した場合には米軍が台湾を防衛すると明言した。
発言自体は歓迎できるが、中国への牽制(けんせい)を強めるには、台湾有事に軍事介入するかどうか明確にしない「曖昧戦略」を転換し、米政府全体で軍事介入の意思を示すべきだ。
見直し求める声高まる
バイデン氏は、米軍が台湾を防衛するのかという質問に対して「もし前例のない攻撃が実際にあればイエスだ」と表明。中国が台湾侵攻に踏み切った場合には、米軍を介入させる考えを改めて明言した。一方で「一つの中国」政策を支持することを改めて訴えて「独立については台湾が自ら決めることだ。われわれは行動や奨励はしない」と強調した。
台湾独立の動きと中国の軍事行動の双方を抑止するため、歴代の米政権は曖昧戦略を維持してきた。CBSによると、インタビュー終了後、ホワイトハウス高官は「米国の政策に変更はない」と説明した。
バイデン氏は5月の日米首脳会談後の記者会見でも、中国による台湾侵攻に米国が軍事介入する意思があるかと問われて「それがわれわれの責務だ」と明言。この時も、政府高官が発言の修正を行った。
バイデン氏が台湾防衛を表明し、中国を牽制したことは評価できる。ただ、そのたびに政府関係者が政策変更を否定するため、ちぐはぐな印象を受けることは否めない。
8月に本紙のインタビューに応じたハリス前駐韓米大使は、曖昧戦略を放棄し、軍事介入の意図を明確に示すよう主張。故安倍晋三元首相やエスパー前米国防長官も見直しを求める発言をしている。台湾有事が現実味を帯びる中、バイデン氏は戦略の転換に向け、指導力を発揮する必要がある。
一方、バイデン政権は8月のペロシ米下院議長の台湾訪問を「賢明ではない」と述べた。これについて、ポンペオ前米国務長官は本紙のインタビューで「米国を弱め、安全を損ね、台湾に大きなリスクをもたらす」と批判。さらに、大混乱を招いたアフガニスタンからの米軍撤収などで露呈したバイデン政権の「覚悟の欠如」が抑止力を低下させ、中国を台湾侵攻に踏み切らせるリスクを高めていると強い懸念を示した。
ロシアがウクライナに侵略した際、米国が派兵しなかったため、台湾では中国が侵攻しても「米国は台湾も見捨てるのでは」という議論が活発化した。対米不信が高まれば、中国が台湾に不安を煽(あお)るような情報戦を仕掛けてくることも考えられる。台湾との信頼関係強化のためには、曖昧戦略の見直しが避けられない。
中国から守り抜く覚悟を
バイデン氏は昨年12月に「民主主義サミット」を主宰し、台湾を招待する一方、中国を除外して権威主義に対抗する姿勢を鮮明にした。
民主主義の価値観を重視するのであれば、共産党一党独裁体制の中国から何としても台湾を守り抜くという覚悟が求められよう。