中国がこれまで否定してきた新疆ウイグル自治区での人権弾圧を国連機関が公式に認めた。中国はこの事実を真摯(しんし)に受け止め、人道に反するウイグル人への弾圧を直ちにやめるべきだ。
「深刻な人権侵害」と指摘
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、新疆ウイグル自治区で「テロや過激派対策を名目に深刻な人権侵害が行われている」などと指摘した報告書を公表。「関係する法令の曖昧さが解釈の幅を与えている」として、当局による法令の恣意(しい)的な解釈が人権弾圧につながっていると批判した。中国の「反テロ法」は「社会秩序の破壊」もテロの一例としており、拡大解釈が可能だ。
報告書ではさらに、中国が職業訓練所だとする施設に収容されている人たちについて「拷問などが行われているとする主張には信憑(しんぴょう)性がある」とし、こうした人権侵害は「人道に対する罪に該当する可能性がある」と指摘している。その上で中国政府に、拘束されているウイグル人らを解放するよう求め、行方不明者の所在を公表するとともに、差別的な法律を撤廃することなどを要求している。
バチェレ国連人権高等弁務官は今年5月、中国政府の招待で新疆ウイグル自治区を視察に訪れた。中国側が職業訓練に使っているという施設や刑務所を視察したものの、訪問先は区都ウルムチと西部カシュガルの2カ所に限られ、滞在期間も2日間しかなかった。
新型コロナウイルスの感染対策を理由に、外部との接触は制限され、記者団の同行もなかった。これで人権状況に迫れるわけがなく、バチェレ氏自身「詳細に踏み込むことは困難だった」と述べていた。逆に中国当局の宣伝に利用されることが懸念され、米政府や在外ウイグル族組織「世界ウイグル会議」から訪問に疑問の声が上がっていた。
しかし、この訪問期間中、ドイツ誌シュピーゲルによって衝撃的な内部資料が明らかにされた。資料には収容所で、拷問用の拘束具に座らされる男性や、背中に傷を負った男性らの写真があり、自治区トップの党委員会書記が演説で「(収容所から)数歩でも逃げようとした者は射殺せよ」と述べたことなどが記されていた。英BBCも、習近平国家主席が「200万人」の収容目的を達成するための施設の建設や資金の増額といった「重要指示」を出していたことも明らかにした。
中国は今回の報告書が出されないように圧力を加えていたと言われ、報告書を「中国を誹謗(ひぼう)中傷する」ものと批判している。国連を利用することには熱心だが、その報告を尊重する姿勢は微塵(みじん)も見られない。
企業も人権問題に配慮を
このような中国に対しては、国際社会がさらに圧力を強めていくしかない。日本政府は報告書について「自由、基本的人権の尊重、法の支配が中国においても保障されることが重要だ」と述べたが、岸田政権はもっと厳しい態度で臨むべきである。
また、企業も人権問題に配慮した対応を取る必要がある。いわゆるコーポレートイメージに直結する問題として深刻に受け止めなければならない。