【社説】警察庁長官辞意 重大問題残す安倍元首相警護

奈良県奈良市で参院選自民党候補者の応援演説を行っていた安倍晋三元首相が銃撃によって殺害された事件をめぐり、警察庁の中村格長官が辞意表明し、また奈良県警の鬼塚友章本部長も辞任する意向を示した。

事件は携帯端末など多くの映像で捉えられており、要人暗殺を防ぎ得なかった警備の甘さが指摘されてきた。引責辞任はやむなしだが、再発防止に万全な取り組みをなすべきだ。

容疑者の動き察知できず

中村氏は、警護の検証報告書に関する記者会見の中で辞職願提出を明らかにした。事件では、現場で手製の銃を2回発砲した山上徹也容疑者が逮捕されたが、報告書によると、安倍氏周辺を警護していた警視庁警護員(SP)と県警3人の4人とも容疑者の後方からの接近に気付かず、警備の重点を前方に移す配置変更の情報が共有されていない。また、最初の発砲音を銃声と認識していなかった。

このため、安倍氏にさらに近づく容疑者の不審な動きを察知できず、最初の発砲後なお2・7秒間の接近を許し、至近距離からの銃撃を防ぎ得なかった。手薄な警備の上、警戒感の不足などの落ち度は否めない。

海外に比べ日本は銃による事件は少ない。しかし、銃で政治家を狙った事件は何度も起きている。1990年に長崎市の本島等市長が銃撃されて負傷し、92年に自民党の金丸信副総裁が講演中に銃撃されたが無事だった。2007年には長崎市の伊藤一長市長が選挙中に銃撃されて殺害された。凶器・刃物だけでなく、銃による襲撃も想定しなければならなかったはずだ。

また、日本では原則として所持が禁じられている拳銃が使われたが、今回は容疑者がインターネット情報を参考に市販品を加工した銃を複数所持していたことから、類似犯が出る恐れがある。選挙では不特定多数の有権者と候補者、応援の政治家が触れ合おうとする。ネット時代になり、遊説予定を選挙陣営も逐一配信して人を集めようとする。警察庁は要人警護の在り方を抜本的に見直す方針だが、特に難しいと言われる選挙運動については対策の強化が必要だ。

一方、安倍氏銃撃事件直後の県警の情報リークも釈然としない。山上容疑者が供述したという宗教団体への恨みから安倍氏を殺害したとの情報がマスコミに流された。容疑者は現在、精神鑑定留置に入っており、犯行動機はまだ裁判で明らかになってない。リークに事件の批判をかわす狙いはなかったか。

また報道によると、安倍氏に当たった銃弾の1発が行方不明だ。安倍氏の死因についても、治療に当たった奈良県立医科大付属病院側の記者会見と、警察の司法解剖の説明とが食い違うなど、不可解さを指摘する声も上がっている。

公正な裁判になるか懸念

さらに、容疑者が供述したと言われる「旧統一教会」への恨みに便乗した批判報道が過熱し、安倍氏の国葬に反対を主張する野党勢力の支持を受けている。凶悪な安倍氏殺害にもかかわらず、容疑者の減刑運動が始まるなど異常な政治性をはらんでおり、公正な裁判員裁判になるか懸念される。

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