【社説】原発新設へ 電力の安定供給につなげよ

岸田文雄首相は首相官邸で開いた「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」(議長・首相)で、次世代型原発の開発・建設や原発の運転期間延長などについて「年末に具体的な結論を出せるよう検討を加速してほしい」と指示した。

2011年3月の東京電力福島第1原発事故以降、新増設をしないとしてきた政府方針の大きな転換となる。電力の安定供給につなげるべきだ。

次世代型開発の検討指示

政府は原発事故後、新増設と建て替えを凍結し、昨年10月に閣議決定した「エネルギー基本計画」でも「可能な限り原発依存度を低減する」としていた。今回の方針転換の背景には、地球温暖化対策のために産業革命以来の化石燃料中心社会の変革を図るGXに原発が不可欠との判断がある。

この動きを後押しするのが電力需給の逼迫(ひっぱく)だ。再生可能エネルギーの普及で採算が悪化したため、火力発電所の休廃止が相次いでおり、供給力が大幅に減っていることが厳しい状況を招いている。

政府は今年3月、東電管内に「電力需給逼迫警報」、6月には「電力需給逼迫注意報」を発令した。警報は電力供給の余裕を示す予備率が3%、注意報は5%を下回ると予想される場合に発令されるが、今冬も綱渡りの状況が続く見込みだ。

電力不足で夏や冬に大規模停電が発生すれば、生命に関わる事態となる。電力の安定供給は喫緊の課題である。GXの柱の一つである再生エネは、天候で出力が変動するため、安定供給のためには原発の活用が欠かせない。

さらに、ロシアのウクライナ侵略に伴うエネルギー価格の高騰も今回の方針転換に影響を与えた。エネルギー安全保障の強化に向け、原発再稼働とともに安全性の高い次世代型原発の開発も急ぐべきだ。

既存の原発に関しては、事故後に導入した新規制基準をクリアし地元の同意を得て再稼働した実績がある10基に加え、首相は7基の追加再稼働に向け「国が前面に立ってあらゆる対応を取っていく」と述べた。

再稼働を目指す7基は、東電柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)や関西電力高浜原発1、2号機(福井県)など。原発事故以降、東日本で再稼働した原発はゼロだったが、この7基のうち4基が東日本に立地する。柏崎刈羽は地元同意が得られていないため、国が調整を進める必要がある。

経済産業省は、原発1基を稼働させれば液化天然ガス(LNG)約100万㌧の利用を減らし、17基の稼働は約1・6兆円の国富の流出回避につながると試算している。

規制委は審査の迅速化を

新規制基準は世界で最も厳しいとされ、原子力規制委員会がこの基準に基づいて原発の安全審査を行っている。審査の標準処理期間は2年と定められているが、大幅な超過が相次いでいる。規制委は政府の方針転換を契機に、審査の迅速化に努めるべきだ。

政府が原発活用に一層の積極姿勢を示すことで、原発への根強い不信感を払拭(ふっしょく)したい。
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