スリランカのウィクラマシンハ大統領は日本に対し、中国やインドなどの債権国を集め、2国間の債務再編に関する協議を開催するよう要請する考えを示した。9月に訪日し、岸田文雄首相と会談する予定だという。
日本は中国やインドなどと共に主要な債権国の一つだ。協議開催に応じ、スリランカへの支援に消極的な中国の態度を改めさせる必要がある。
対中債務で外貨不足に
外貨不足による深刻な経済危機に直面しているスリランカは7月、国の「破産」を宣言。同月には反政府デモが拡大し、当時のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領が失脚した。ウィクラマシンハ氏としては経済危機脱却のため、スリランカをめぐる中印の対立から距離を置く日本の主導で債務再編の交渉を円滑に進める狙いがあろう。
外貨不足を招いた最大の要因は、インフラ整備のため中国などから借り入れた巨額の対外債務返済だ。ゴタバヤ氏の兄のマヒンダ氏は2005年に大統領に就任し、中国との関係を深めて無謀な借金と無駄なインフラ建設に突き進んだ。
その一つが、南部のハンバントータ港だ。この建設は中国の経済圏構想「一帯一路」の重要事業に位置付けられている。総事業費約15億㌦(約2000億円)の大半が中国の融資で賄われたが、債務返済に窮したスリランカは17年、運営権を中国国営企業に99年間貸与した。
スリランカはインド洋の中間に位置する要衝だ。ハンバントータ港が事実上「中国の港」となったことは、中国と領土問題で対立するインドにとって大きな脅威だと言えよう。
ハンバントータ港には今月、中国海軍の観測船が入港した。インドが自国領内を偵察可能な「スパイ船」(インドメディア)などと懸念したため、スリランカは中国側に入港延期を求めていたが、中国の圧力に抗し切れなかったようだ。中印両軍は20年6月、カシミール地方で未画定の国境をめぐって衝突するなど両国間の軍事的緊張は高まっている。
中国が発展途上国を「借金漬け」にして影響力を強める「債務のわな」は、地域の不安定化にもつながりかねない。パキスタンやバングラデシュ、ミャンマーなどでも中国の後押しによる港湾開発が進んでおり、中国の覇権拡大が懸念される。
スリランカの債務をめぐっては、今年7月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、イエレン米財務長官が「中国によるスリランカの債務再編に期待する」と訴えた。日本も中国に債務減免などに応じるよう強く求めるべきだ。
地域の繁栄に尽力を
バイデン米大統領は6月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、G7が中国に対抗し、途上国で「質の高い」インフラ整備を後押しする新たな枠組みの立ち上げを発表した。
凶弾に倒れた安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想は、自由や法の支配などの価値観を重んじ、市場経済に基づく安定的な成長を目指すものだ。日米欧は安倍氏の遺志を継ぎ、地域の繁栄のために尽力する必要がある。