環境省は強い毒性を持つ特定外来生物「ヒアリ」の侵入や分布拡大を防ぐための対策を強化する方針だ。
ヒアリに刺されると強い痛みが生じ、最悪の場合では死に至るケースもある。定着阻止に全力を挙げるべきだ。
国内では90件の事例
定着とは、国内で継続的に繁殖する状態と定義されている。ヒアリは南米原産だが、2000年代に生息地を拡大。現在は北米や中国、台湾、フィリピンなどでも定着し、世界各地で大きな問題となっている。
日本では17年6月に兵庫県尼崎市で初めて確認されて以降、現在までに18都道府県で90件の事例が報告された。今年5月には東京港の青海埠頭で約500匹、6月には名古屋港の鍋田埠頭で100匹以上が発見されている。
環境省は「定着ぎりぎりの段階」とみており、現在65の港湾で実施されているモニタリングの精度や頻度の向上を図るなど対策を強化する。特に、繁殖能力のある女王アリへの警戒を強めなければならない。風に乗って飛んだ女王アリが、港湾から離れた場所で新たな巣を作る恐れもあるからだ。
ヒアリに刺された時に激しいめまいや動悸などの症状が出た場合は、強いアレルギー反応「アナフィラキシーショック」が起きている可能性があり、生命の危険を伴う。定着すれば、屋外で安心してレジャーを楽しむこともできなくなろう。電気設備に巣を作って信号機などを故障させたり、家畜を刺して農業に打撃を与えたりすることも憂慮されている。
先の通常国会では、ヒアリ対策を強化する改正外来生物法が成立。改正法ではヒアリを含む特定外来生物について、国などが防除だけでなく生息調査のためでも私有地などに立ち入りできるようになった。
これまではヒアリとみられるアリが発見されても、周辺の土地を調査するには事業者らの承諾を得るか、ヒアリと特定されるのを待たなければならなかった。法改正を早期発見と定着阻止につなげる必要がある。
グローバル化が進む中、ヒアリなどの外来種による国内の生態系や人の身体、農林水産業への影響が懸念されている。改正外来生物法ではアカミミガメ(ミドリガメ)とアメリカザリガニについて、家庭のペットとしてであれば飼育などを例外的に認める規定を盛り込んだ。
この2種は米国南部原産で、在来の生態系や農水産物に被害をもたらしていることから、特定外来生物への指定が政府内で議論されてきた。ただ指定されれば飼育に許可が必要になるため、指定後に飼育中の個体が大量に自然に放たれて生態系への影響が拡大する懸念があった。アカミミガメは約160万匹、アメリカザリガニは約540万匹が飼育されているとの推計もある。
外来種の影響最小限に
環境省は特定外来生物の防除に取り組む地方自治体への交付金を拡充し、国全体の対策強化を図る方針だ。ヒアリの定着阻止はもちろん、外来種の影響を最小限に抑える取り組みが求められる。