
ロシアのウクライナ侵略により、ウクライナ産小麦をはじめとする穀物の輸出が滞った影響は、世界各地で食料危機を招きかねない。今月に入り輸出が再開されたが、航路を保証し安定的に輸出の継続を図るべきだ。
露が再攻撃する可能性も
ウクライナ西部のリビウでゼレンスキー大統領とグテレス国連事務総長、トルコのエルドアン大統領が、再開されたウクライナからの穀物輸出の継続をめぐって会談を行った。
7月に国連やトルコがロシアとウクライナを仲介して合意した穀物輸出協定に基づき、ウクライナから1日に穀物船の出港が再開された。だが、ロシアは合意の翌日にオデッサ港などウクライナの港湾を攻撃しており、今なお危険な状況にあることには変わりない。
黒海では両軍によって敷設された機雷が船舶の航行を脅かす一方、戦況によってはロシア軍が再び攻撃を加える可能性もある。ウクライナは米国から供与された対艦ミサイル「ネプチューン」により、露海軍の動きをある程度牽制(けんせい)できるとはいえ、キロ級潜水艦やクリミア半島に配備された地対艦ミサイルの脅威にさらされている状況だ。
だからこそ、外交による話し合いが重要だ。輸出再開の合意に際しては、トルコのイスタンブールに「共同調整センター」を設置し、穀物船の安全確保や武器などの密輸の取り締まりを行っている。ウクライナ東部や南部で戦闘が続く中だが、仲介国のトルコや国連を交えた4者共同の調整作業が軌道に乗ることを見守りたい。
また、ロシアとウクライナは世界有数の穀倉地帯だ。ウクライナへの侵攻後、原油と共に小麦など穀物の高騰が世界経済にマイナスの影響を与えている。ロシアの小麦生産量は中国、インドに次いで世界3位ながら、人口10億超の中印と異なり、国内で消費できない分は輸出しなければならない。小麦輸出でロシアは世界の20%を占めて世界一、ウクライナも9%に上る。輸出先の中東、アフリカの国々では深刻な食料不足になった。
国連人道問題調整事務所(OCHA)は、ロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響で、アフリカで「深刻な食料不足」の状態になるのは1500万~1600万人に及ぶとの見通しを発表している。戦禍にさいなまれるウクライナの国民は1000万人以上が国外に逃れる避難民となっているが、同様に世界で食料危機による難民が増えることは大きな問題だ。
穀物輸出協定に基づいてウクライナを出港した穀物船は、これまでに20隻余りに達した。輸出再開までに貯蔵庫には推定で約2500万㌧の穀物が溜(た)まっており、これを全て輸出するには数カ月かかる見通しだ。いずれにしてもロシアの攻撃を抑えながら、経済秩序を回復させる道を探らなければならない。
交渉を停戦につなげよ
アフリカ諸国などの強い要望による食料危機回避の取り組みが、ウクライナとロシアの交渉を実現させており、今後は停戦を展望する動きにつなげることが課題だ。厳しい制裁が科されるロシアにも、硬軟両様の働き掛けがあり得るだろう。