アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが20年ぶりに実権を握ってから1年がたった。
米軍が撤収し、タリバンによる支配の下で経済は悪化。社会のイスラム化が進み、テロが横行している。人道支援、テロ対策の強化が急務だ。
米のアフガン撤収で混乱
バイデン米大統領はアフガン撤収を受け、20年にわたるアフガン戦争の終結を宣言した。ところが撤収時の不手際などもあり、アフガン国内では混乱が続いている。米国と同盟国に協力してきたアフガン人の救出は計画通りに進まず、多くが取り残された。
国連アフガン支援団(UNAMA)が7月に発表した人権状況に関する報告によると、タリバン復権から10カ月間で前政権、治安部隊関係者ら160人が処刑され、178人が逮捕・拘束された。
また、タリバンは女性の就業、就学を認めるとしていたが、その約束も守られていない。男性を伴わない遠方への外出は事実上禁止され、女性の就業、教育も制限されたままだ。2001年のタリバン政権崩壊前への後戻りだ。
国際社会はこれら明確な人権侵害に声を上げ、是正へ具体的な措置を取るべきだろう。
タリバンはテロ組織との関係を断絶し、国内をテロの温床としないことを、20年2月の米政府との合意で約束していたが、「イスラム国」(IS)やアルカイダなど過激派組織によるテロが頻発。UNAMAの報告によると、IS系武装勢力による攻撃で民間人700人が死亡している。
今年7月末、アルカイダの最高指導者アイマン・ザワヒリ容疑者が米軍の攻撃で死亡した。米軍撤収の不手際をめぐって非難されてきたバイデン氏は、ザワヒリ容疑者殺害をテロ対策の成果として誇示した。
しかし、テロ組織の最高指導者が首都カブールに居住していたこと自体、アフガン内の過激派対策が功を奏していないことを示している。タリバンとも一定の関係を持っているとみるのが自然だろう。ブリンケン米国務長官は、ザワヒリ容疑者をかくまっていたとタリバンを非難したが、アフガンを再びテロの温床とさせないための強い措置が必要だ。
米国による制裁もあり、アフガン経済は疲弊し、物乞いや生活苦から自殺する人も増えているという。
また、撤収時の米国の不手際がロシア、中国にも影響を及ぼしたという指摘も米国では出ている。アメリカン・エンタープライズ政策研究所のマイケル・ルービン常任研究員は、バイデン氏がアフガンで「弱さを露呈」したことで「ウクライナと台湾の人々がその代価を支払わされている」と指摘した。
テロの温床にするな
タリバン側が米政府との合意を順守しない一方で、米軍撤収だけが実施された。「撤収ありき」の合意にも問題があったと言えよう。
このまま放置されれば、アフガンがテロの温床となるのは目に見えている。その代価を払わされるのは欧米などの民主主義世界だ。