【社説】原発への砲火 露軍は惨事回避に向け返還を

ロシア軍がウクライナ南東部で占拠したザポロジエ原発で砲撃などの戦闘が続いていることから、大規模な原発事故災害が発生することに懸念が高まっている。ウクライナへの軍事侵攻後の露軍の原発施設への攻撃や占拠は、国際法違反であり許すことはできない。

ザポロジエで被害発生

ザポロジエ原発は原子炉6基を有する欧州最大の原子力発電所であり、ウクライナの全電力の5分の1を発電しているとされる。今月に入って砲撃が加えられており、送電線が破損、使用済み核燃料貯蔵施設に着弾するなどの被害が発生。露軍とウクライナ軍は互いに相手の攻撃と非難しているが、グテレス国連事務総長が「原発への攻撃は自殺行為」と叱責した通りだ。施設一帯の非武装化と国際調査団の派遣を実現させるべきだ。

3月には、露軍が同原発を攻撃して占拠する際に火災が発生した。原発攻撃は前例のない蛮行であり、世界を震撼(しんかん)させている。戦闘によって原子炉が爆破されればチェルノブイリ原発事故の数倍に及ぶ大惨事となることが危惧されている。

ロシア軍は2月の侵攻開始直後には、ベラルーシ国境からウクライナに南下し、放射能汚染地帯のため立ち入り禁止になっていたチェルノブイリ原発を占拠している。戦時国際法のジュネーブ条約第1追加議定書は、原発、ダム、堤防など危険な力を内蔵する工作物等への攻撃を禁じており、国連安全保障理事会常任理事国のロシアによる違法行為に非難が相次いだ。しかし、ロシアなどの拒否権により決議採択はできない状況だ。

だが、露軍によるチェルノブイリ原発占拠では、周辺の森で塹壕(ざんごう)を掘ったロシア兵が大量の放射性物質に接して被曝(ひばく)したとみられている。原発で災害が起きれば、軍事侵攻したロシア側にも災禍が及ぶことは火を見るよりも明らかだ。

露軍が撤退したチェルノブイリ原発に比べ、砲火が飛び交う戦闘が起きているザポロジエ原発はより深刻な状況だ。ウクライナにとっては国内の貴重な電力源であり、南部への反撃とともに奪還しようとの意思も働くだろう。しかし、露軍は同原発を「核の盾」にして施設内にウクライナを攻撃する兵器を運び入れているとウクライナ側は批判しており、原発を軍事拠点化すれば戦闘の危険性が高まる。

もともと露軍のウクライナ南部クリミア半島併合、今年2月からの軍事侵攻も国際法に違反する力による現状変更であり、占拠した原発施設はウクライナに返還し、攻撃を禁止することで安全性を確保すべきである。

先進7カ国(G7)の外相は、ロシアに対しザポロジエ原発をウクライナの管理下に戻して国際原子力機関(IAEA)の監視を受け入れるよう求める共同声明を発表したが、国際的な働き掛けは無駄ではない。

卑劣な行為を放棄せよ

露軍はウクライナの原発施設を「核の盾」とする卑劣な行為を放棄し、占拠を解くべきだ。万一、砲火により大惨事となる原発災害が起きれば、誰も立ち入ることができない放射能汚染地域がロシアが侵攻した大地を覆い尽くすだけである。

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