【社説】KDDI障害 業界挙げて緊急時の対策を

総務省が7月上旬に大規模な通信障害を起こしたKDDIと子会社の沖縄セルラーに対し、金子恭之総務相名で行政指導した。この中で障害を「重大な事故」と認定し、再発防止策や障害時の周知方法改善などについて11月10日までに報告するよう求めた。消防や警察への緊急通報がつながりにくくなったことも大きな問題となった。国と通信各社は緊急時に他社の通信網に乗り入れる「ローミング」の導入など対策を急ぐべきだ。

大臣名での行政指導は初

通信障害の行政指導を大臣名で行うのは初めてだ。金子氏は「これまでになく長時間で大規模だったことを極めて重く受け止めた」と厳しく指摘した。KDDIは責任の重さを自覚する必要がある。

今回の障害は7月2日午前1時35分に発生。61時間25分にわたって延べ3091万人以上の音声通話やデータ通信が使いづらい状況となり、携帯会社の通信障害としては過去最大規模となった。通信機器のメンテナンス時の設定ミスが原因で、一時的に通信が遮断されたことで再接続のためのアクセスが殺到。トラブルは連鎖的に別の機器にも広がり、ネットワークが正常に働かなくなったため、通信制限を実施した。

KDDIは利用者に契約約款に基づく返金に加え、おわびとして一律200円を9月以降の請求額から差し引く。だが、返金すれば済む問題ではない。

特に深刻だったのは、消防や警察への緊急通報がつながりにくくなったことだ。体調を崩した高齢者や、山で遭難した人が通報できなくなるなど人命に関わる問題も発生した。本来であれば助かるはずの命が、通信障害で失われることがあってはならない。

総務省はローミング導入を検討する会議を9月に設置する。ローミングは、通信会社が自前のネットワークを持たない地域で提携する他社の回線を借りて通話やデータ通信のサービスを提供する仕組みだ。

2011年3月の東日本大震災後にも導入を検討したが、当時の主流規格「3G」は、大手各社の通信方式が異なっていたために見送られた。現在主流の「4G」「5G」は通信方式に違いがなく、技術面でのハードルは低いとされる。

ただ緊急通報の際、警察や消防は確認のため掛け直すが、他社回線を使うと利用者の番号が残らないため、掛け直しが難しいことがネックだ。システムを連携させるなど、他の通信各社もローミング導入に向け協力する必要がある。NTTドコモも21年10月に大規模障害を起こしており、他社にとってKDDIの障害は決して人ごとではないはずである。

混乱抑える適切な周知を

今回の障害について、総務省は有識者会議で原因の検証や再発防止策の検討を進めるとともに、障害発生時の適切な周知の在り方についてもルール化を含めて議論する。

復旧作業が終了したと公表した後も電話がつながりにくい状況が続くなど、KDDIの周知・広報には課題が残った。混乱を最小限に抑えるための効果的な方策が求められる。

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