日本学術会議は軍用にも民生にも利用可能な「デュアルユース」技術について、軍事に無関係な研究と「単純に二分することは困難」として事実上容認する見解をまとめた。
これまで軍事研究に一貫して反対してきた学術会議の大きな方向転換とも言える。しかし、見解は軍事研究そのものを認めたものではなく、従来の立場に変更はないとしている。これでは不十分だ。
軍民両用技術を容認
学術会議は、科学者が戦争に関与した反省などから、1950年4月と67年10月に「軍事目的の科学研究を行わない」などと表明。2017年3月にはこの立場を継承するとの声明を発表した。
だが、科学技術の急激な進歩によって軍事と民生の区別をつけるのは難しくなっている。例えば、インターネットや全地球測位システム(GPS)は軍事技術として生まれたものだ。自動掃除機は地雷探査ロボットの技術を応用している。ワクチン開発も生物兵器の技術につながる面がある。
学術会議は17年の声明で、防衛省が将来の装備品開発を目指して研究者に資金提供する「安全保障技術研究推進制度」について「政府による介入が著しく、問題が多い」との見解を示した。この影響で、大学や研究機関が応募に慎重になった経緯がある。こうした軍事研究忌避の姿勢が技術革新を妨げてきた面があることは否定できない。
この意味で、デュアルユース技術を事実上容認した今回の見解は一歩前進ではある。とはいえ、軍事研究を認めないという基本姿勢が変わらないことは理解し難い。
中国の覇権主義的な動きや北朝鮮の核・ミサイル開発、ウクライナを侵略したロシアの脅威増大など、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増す一方だ。にもかかわらず、内閣府の特別の機関でもある学術会議が、軍事研究に背を向けている現状はおかしい。
背景には、学術会議と日本共産党との関係がある。1949年1月に創設された日本学術会議には、当初から共産党が浸透していた。会員は選挙で選ばれていたが、83年に研究分野の学会ごとに候補者を推薦し、2004年には学術会議が推薦する方式に変わった。それでも、共産党は影響力を維持してきた。現在も210人の会員のうち党員や支持者が7割を占めるとの指摘もある。
20年10月には当時の菅義偉首相が、学術会議が推薦した新会員候補105人のうち6人の任命を拒否した。6人は人文社会科学の研究者で、抑止力を強化するための安全保障関連法などに反対していた。
菅氏は大きな批判を浴び、学術会議は6人の任命を要求し続けているが、問題とすべきは任命拒否よりも推薦過程の方だ。共産党系の学者が自分の息の掛かった学者を推薦したのであれば、学術会議の軍事研究忌避が続いて日本の安全が損なわれかねない。
政府は組織改革を急げ
政府は学術会議から共産党の影響力を排除するための組織改革を急ぐべきだ。