【社説】安倍外交の治績/日本の存在感高めた戦略性

安倍晋三元首相が凶弾に倒れた。志半ばでの死は悔やんでも悔やみ切れないが、憲政史上最長となる通算8年8カ月の長期政権を維持した安倍氏は、わが国の外交・安全保障政策に大きな足跡を残した。

 インド太平洋の安定図る

外交政策で特筆すべきは「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想を提唱し、日本外交の基軸に据えたことである。安倍氏は第1次政権時代の2007年、インド国会での演説で太平洋とインド洋を戦略一体化的に捉える重要性を説いた。

その後、日米印とオーストラリアで中国に対抗する「セキュリティー・ダイヤモンド」構想を打ち出し、16年にFOIPを発表。国際ルールの遵守(じゅんしゅ)や航行の自由といった価値観を共有する国々との連携を広げ、地域の繁栄と安定を目指す考え方だ。

ともすれば戦略不在と批判されるわが国外交にあって、世界情勢の推移を的確に見通し、グローバルな視点を持って自由世界の繁栄と国際秩序の安寧を実現するためのビジョンを示した意義は大きい。日米同盟を深化させると同時に、安倍氏はインドのモディ首相と対話を重ね、また日豪関係を前進させるなどFOIPを自ら実践、推進し、日本外交に高い国際性と深い戦略性を植え付けた。

米国のトランプ前大統領も強く支持し、FOIPは日米共通の戦略となる。バイデン政権も前政権の路線を継承し、FOIPは日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」へ受け継がれた。

そしてこの構想は、今や中国の膨張に対処するための自由世界の行動指針となった。それを可能としたのは、安倍氏の優れた戦略眼に加え、各国首脳と強い信頼関係を築いたたぐいまれな行動力や人間的な魅力だ。わが国の国際社会におけるプレゼンスも高まった。安倍氏が日本に残した大きな遺産である。

安全保障政策では15年に平和安全法制を成立させ、戦後日本の安全保障政策を大きく転換させた。それまで国際法上は可能だが、憲法上認められなかった集団的自衛権の限定的な行使に道を開き、自衛隊が米艦を防護できるようになった。

また自衛隊による米軍の後方支援活動の地理的制約をなくしたほか、弾薬の提供や発進準備中の戦闘機への給油も可能となるなど日米同盟の信頼性は高まった。国連平和維持活動(PKO)や国連の枠外で行われる国際平和活動に対する自衛隊の関与領域も拡大された。

さらに、安倍氏は防衛省を設置(07年)。安全保障政策に対する政治の指導力発揮を目的に国家安全保障会議を13年に創設した。同年に特定秘密保護法を成立させ、国の安全保障に関わる重要な情報を「特定秘密」に指定して漏洩(ろうえい)を防ぐ体制を整えた意義も大きい。

 改憲の早期実現に努めよ

生前安倍氏は、憲法改正に強い意欲を示していた。自衛隊を憲法に明記し違憲論争に終止符を打つとともに、戦後レジームからの脱却を目指した。残念ながら改憲を見届けることは叶(かな)わなかった。残された者は遺志を受け継ぎ、改憲の早期実現に努めなければならない。それが安倍氏への最高の供養となろう。

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