原材料の価格高騰や円安進行が製造業を中心に企業に重くのし掛かっている――。日銀が発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)が浮き彫りにした企業の現況である。
先行きにも企業は慎重である。政府・日銀はこれ以上の円安進行を阻止するとともに、価格転嫁(値上げ)による消費の落ち込みを防ぐ十全な対策を取ることが必要である。
先行きにも慎重な見方
企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が、大企業製造業は2期連続で悪化。16業種中12業種で悪化した。産業の裾野の広い自動車は業況判断DIがマイナス19と4ポイントの悪化である。
ロシアのウクライナ侵攻の影響で、原油などのエネルギーや小麦など穀物の価格が高騰。これに円安の進行が拍車を掛け、企業収益を圧迫した。新型コロナウイルス感染拡大に伴う中国・上海の都市封鎖では、供給網が混乱して部品調達の停滞を余儀なくされ、業種によっては原材料高、円安に加え、三重苦に見舞われている。
先行きについても、中国発の供給制約は次第に改善に向かうとの見方があるものの、円安基調は欧米との金利差拡大、金融政策の方向性の違いから続くとみられ、視界不良の状況が継続するとの見込みである。
一方、大企業非製造業は、新型コロナの影響緩和で経済活動が正常化に向かうに伴い消費活動が活発化し、これが追い風となって宿泊・飲食サービスを中心に景況感が改善。業況判断DIはコロナ禍前の2019年12月調査以来の水準に回復した。
先行きに関しても、水際対策が緩和されたことでインバウンド(訪日外国人旅行者)需要に期待する声は少なくない。ただ製造業と同様、原材料高への警戒感から慎重な見方が広がる。仕入れ価格判断DIは8ポイント上昇のプラス43と過去最高になっているのである。
懸念されるのは、やはり円安である。米国で円相場は一時1㌦=137円台を付けるなど、円安の進行に歯止めが掛からないでいる。円安の恩恵を受けやすい輸出企業でさえ、海外現地生産が進んでいる中、材料の値上がりで景況感が悪化する状況は尋常ではない。
日銀は先の金融政策決定会合で大規模緩和の継続を決めたが、日銀が目安にしていた2%の物価目標は既に4月、5月と2カ月連続で達成している。
物価の上昇は海外条件からも急速な改善は見通しにくく、食品などの値上げラッシュは今後も続く情勢である。長期金利の緩やかな上昇はある程度容認するなど、これ以上の円安進行阻止へ大規模緩和を見直すといった政策スタンス変更の意思表示が求められる。
消費減退への防止策を
値上げは消費を冷やす恐れがある一方、企業が原材料高の影響を抱え込めば収益を圧迫するなど、いずれも景気の下振れ要因である。
政府は消費減退防止へ「インフレ手当」など効果的な対策を取るべきである。コロナ感染がまた拡大の傾向を見せているが、非製造業で出てきた経済活動再開の動きを止める悪循環は何としても避けたい。