子供政策の司令塔となる「こども家庭庁」設置法と、その基本理念を定めた「こども基本法」が成立した。
わが国にはいじめ・虐待、少子化、貧困など、子供をめぐる深刻な問題が山積している。縦割り行政の弊害打破を目指す新組織の設置が、これらの問題を解決するだけでなく、子供の成長の基盤である家庭と地域社会の再生の一歩となることを期待したい。
首相直属機関の位置付け
来年4月に発足するこども家庭庁は、関係府省の担当部局を統合するとともに、政府内にまたがる他の調整機能も集約。首相直属機関と位置付け、300人規模の体制で幅広い問題に取り組むことになる。
法案提出までには曲折があった。新組織の名称は当初、「こども庁」が想定されていた。子供を「権利行使の主体」とするとともに、家庭を干渉・抑圧するものと捉える左翼的な考えの影響があったからだ。基本法にも、子供の人権擁護状況を調査・勧告する「コミッショナー」導入案が出ていた。自民党保守派から懸念が出て、これらの案が退けられたことは評価したい。
行政から独立した第三者機関で「子供の代弁者」と位置付けられるコミッショナーが導入されれば、例えば「制服が子供の権利を侵害している」などという主張が通り、規律の大切さを教える学校がその役割を果たせなくなる懸念があったのだ。
虐待の場合は、子供を家庭から切り離して保護しなければならないケースは少なくない。しかし、家庭は子供の成長の基盤であり、親との絆が強まってこそ健全に成長する。
新組織はこの家庭観で問題解決に取り組むべきである。子供を権利行使の主体と捉えて「こどもまんなか」社会の実現を目指す新組織が、誤った「子供中心主義」に陥らないよう注視する必要がある。
新組織が最優先に取り組むべき課題の一つに、少子化がある。昨年の出生率は6年連続の減少で1・30だった。政府は2015年、子育て世代が希望する出生数を実現できる「希望出生率1・8」を目標に掲げたが、この目標から年を追うごとに遠ざかっているのが現状だ。
国会での議論で「家庭」と聞くと傷つく子供がいるので「こども庁」にすべきだという意見があった。確かに、虐待被害児の中には家庭に負のイメージを抱く子供は少なくない。
しかし、「こども庁」は本末転倒の発想だ。子供たちが「家庭」と聞いた時に「幸福」を思い描けるよう、新組織はこれまでの少子化対策を抜本的に見直し、家庭の再生に全力を挙げるべきなのだ。このままでは結婚を敬遠する若者が増え、少子化はさらに深刻化してしまう。
国民の協力が不可欠
虐待の背景には、孤独感を抱えながら子育てする母親の増加もある。この問題への対応は、行政だけでは限界があり、子育て世代を見守る地域社会の再生が欠かせない。
子供は「社会の宝」だ。新組織の船出には日本の将来がかかっているが、その成功には国民の協力が不可欠であることを強調しておきたい。