
オーストラリアでは5月の総選挙で勝利した労働党の政権が発足し、党首のアルバニージー氏が首相に就任した。豪州には豪市民権を持つ中国人120万人が生活し、彼らの多くが労働党支持とみられる。日本は「準同盟国」である豪州との連携を強化し、中国に付け入る隙を与えないようにすべきだ。
「親中派」との見方も
アルバニージー氏は首相就任早々、東京で開かれた日米豪印の連携枠組み「クアッド」首脳会議に出席。岸田文雄首相との会談では、ロシアのウクライナ侵略を非難するとともに、覇権拡大を図る中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けた連携促進で合意し、日豪の安全保障協力強化を申し合わせた。
豪州のモリソン前首相は、中国で最初に感染が広がった新型コロナウイルスをめぐって発生源に関する独立調査を主張するなど中国への強い姿勢を打ち出し、中国は豪州産のワインや大麦などを対象に事実上の貿易制裁に踏み切った。安全保障分野では中国の脅威を念頭に、原子力潜水艦の調達に向けた米英との枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設した。
だが、4月半ばに豪州とつながりが深い南太平洋のソロモン諸島が中国と安全保障協定を締結。豪州で警戒感が高まり、モリソン氏率いる保守連合の総選挙敗北の一因となった。
中国の王毅国務委員兼外相は5月末から南太平洋諸国を歴訪し、フィジーでは第2回中国・太平洋島国外相会合に出席。経済振興などに向けた連携強化で一致したが、中国が提案していた安全保障分野の協力は合意内容に含まれなかった。今後も中国に対する警戒を怠ることはできない。
中国には、南太平洋での米国の影響力を弱め、豪州を封じ込めて台湾侵攻の環境を整える狙いがある。そのために、この地域での軍事基地確保を目指しているとみていい。
一方、中国は労働党政権発足を機に豪州との関係改善に意欲を示している。李克強首相はアルバニージー氏の首相就任に祝電を送った。クアッド切り崩しのため、労働党政権に秋波を送る可能性がある。
労働党は、対米関係を重視するモリソン前政権の外交政策への支持を表明しているが、「親中派」との見方も根強い。労働党のキーティング元首相の「台湾は豪州にとって重要な利益ではない」との発言もあった。だが対中融和路線に舵(かじ)を切れば、地域の安全が脅かされることにもなりかねない。
安保協力を着実に進めよ
日豪両国は1月、自衛隊と豪軍の相互訪問を容易にする「円滑化協定(RAA)」に署名した。相手国での法的地位を定める内容で、共同訓練の拡充などにつながるものだ。
昨年11月には、海上自衛隊の護衛艦が豪海軍の艦艇を警護する「武器等防護」を実施した。武器等防護は安全保障関連法に基づくもので、自衛隊が米軍以外を警護するのはこれが初めてだった。こうした安全保障協力を着実に進め、民主主義の価値観を共有する日豪、日米豪の連携を強化すべきだ。